ねえ、夢、みてる?


突然聞かれて、思わず立ち止まる。
相変わらずこいつは突拍子もないことを。一体どっちの意味だろうか。 白昼夢のことなのか、将来の夢のことなのか。
そんなことを考えてる間見つめていた、夕焼けに伸ばされた黒い影が細くて頼りない。 でも。隣の彼女の方がずっと消えそうなくらいだった。


「なんだよ、いきなり。・・・そんな、暗い顔すんなよ。」


彼女に呆れたように、でもやさしくそっと問いかける。
足は依然として動かないまま、けれど腕は軽やかに、彼女の手を握ろうと動く。
ぎゅ、と小さく手を握られてから、彼女は困ったような笑みをこっちに向けた。


「だってね、あたし、なりたいものが解んないんだよ」


ずっとずっと、ずーっと。みんなと一緒にいられればそれだけで満足なのにな。


・・やはりそっちの夢か、と思う。
そういえば今日は進路相談の日だった。きっとそこで何か言われたのに違いない。 帰り道は確かにずっと黙っていて、いつもの彼女らしくはなかった。
ナイッシュー、と遠くからキャッチボールをする少年の声、笑い声が聞こえた。
いま自分が立つ土手の下、さわさわと揺れる草も影も光も少年たちとともに生きている。 けれども今自分はただ見ているだけ、水面のようにきらきら輝く下の世界がなんだかやけに眩しく感じた。
こうして。、こうして大人になってゆく。 一歩ずつ、夢だけを見ている日々から遠ざかっていく、二度と戻れない時代を見下ろす立場になろうとしている。
いつか、あの頃は良かったと振り返って懐かしむ時が来るんだろう。それが哀しい。 あの少年たちの中には決して混ざれないものを持ちはじめてしまった。
・・でも、それでも。俺は、知っている。


「なりたいものなんて、ゆっくり見つけていけばいいだろ。」


俺だって、探してる途中だ。


え、とこっちを向いた驚いた顔はやがて、繋いだ手に込められた強さに気づいて、ゆっくりと笑顔に変わっていった。 まるで、ひまわりが大きく明るく花ひらくように。
それは、あの少年たちの輝く笑顔と同じ。
ずっと変わらないもの、揺るぎないもののひとつだと俺は知っている。


だから。









Boys be ambitious!

(大丈夫、大丈夫)(未来はこの手の中にある)





08.11.09.aoi
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