小学生の頃、さ。
給食で残った牛乳はジャンケンで、あんたたちもよく勝ち取ってたよね。 今日は二本!とかミケなんてほんっと嬉しそうで。
でもミケはいつのまにかそんなことしなくなって、気がついたら中学から男三人のおかわりが半端じゃなくなってた。
だからなんだよね、私たちよりもずっと背が高くてたくましくなっていったのは。まだまだ、成長中なんだよね、男の子は。

……でもさ。


「…………ねえ、いい加減牛乳飲むのやめたら?何本目、それ。見てるこっちが吐きそうなんだけど」
「まっだまだイケるってイバちゃん!俺180は欲しいからさ。あともうちょっとなんだよなー」
「右に同じ」
「更に右に同じ。やっと170越したとこだし」
「もう170もあれば十分でしょ……」

妙にセンチメンタルな気分になりつつも目の前の光景に呆れているのは、 マスターがどこからかもらったという大量の牛乳パックを、幼なじみの男三人がやはり大量に消費しているからだった。
カウンターにはすでに十本以上の空のパックが転がっている。 早く片せよとマスターは怒っているが、三人は黙々と飲んでいるばかりだ。
いくら育ち盛りの十代男子とはいえ、よくもそんなに牛乳だけを飲み干せるものだと、杏子はただ、ただ感心するしかない。 呆れるしかない、ともいうが。

―――ほんと、もうそれ以上大きくなんなくたっていいのに。
今でさえ彼らを見上げなければならないほどの身長差なのだから、これ以上差が開くのを黙って見ていられない。 女の子はもう成長しようがないから尚更だった。
まったくこいつらは女子の切実な悩みを全然わかってない。首がたまに痛くなるの、あんたたちは知らないんでしょうね。 まあ言ってないけど。
それから180センチなんかなったら、今以上にもっとこいつらはモテてしまうに違いない ――Q.苦労するのは誰だと思ってるの。 A.もちろんとばっちりを食らうのは女子三人。

意味のない問いかけや男子への不満を心の中で並べて、 それでもなんとなく置いてかれるような寂しさは消えず自然とため息は募る。
神様も不公平だ。なんだって男と女の成長スピードを一緒にしてくれなかったのだろう。 おかげで彼らを羨んでしまう回数が格段に増えてしまった。
成長って、いいことなんだけどね。ああ、でもね。 その牛乳パックが一番必要なのは誰か、なんてことも彼らはわかっちゃいない。
あんたたちはもういいの、認めたかないけど十分かっこいいんだから。男のロマンなんて知るもんですか!
杏子の瞳がきらめいた。

――これ以上置いてかれちゃ、たまんないからね。


「ねえ、あのさ」
「あにー?」
「たくさん牛乳飲んでも骨が丈夫になるだけだよ」

さすがに十七にもなると、過剰摂取してもすべてが骨の成長にまわるとは限らない。
にっこり笑って、なんでもないようにさらりと告げる。


「逆に脂肪がついて背が伸びにくくなったり、なんてこともあるね」


その一言に男共はぴたっと動きを止めた。








カ ル シ ウ ム 摂 取


(これはね?うちの双子のためにあるようなもんなの!)

(……どうぞ、すべてお持ち帰りください、杏子さま)





09.08.21.aoi
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嬉しそうに牛乳パックを持って帰るイバちゃん(食費が浮くから)
男子は嵌められたと思いつつも、喜ぶ幼なじみのふたつの思惑を察して笑顔にならざるを得なかったり。


(飲んでる間中、ずっとあんな顔で見られちゃあな。お見通しだよ、イバちゃん!)