本日、晴天なり。
というわけで、その日は銀河町商店街は子どもたちによるゴミ拾い、もとい美化活動が行われていた。
そして、マブダチ六人組も人手不足のため駆り出されていた・・・はずだった。


「マースター」
「あ?おまえらなにして・・・何持ってんだそれ」
「うしし、拾ったんだよ。で、マスターにもお裾分けしてやろうかと思ってさー。な」
「・・・まーな」
「ん」


あっちいと言いながら一番星に入ってきたのは男三人だけ。加えてクロは紅潮した頬をさらしてどこか落ち着きがない。
それに首を傾げていたマスターだったが、やがてキューが持つものが何か解ると、合点がいった。
それはとてもとても妖しい、まあ言ってしまえば――エロ本、であった。


「・・・おまえらそれどこにあった」
「横道に捨てられてた。お子様にゃ教育上悪いから目に触れないようこっそり持ってきたってわけ」
「捨てろよおまえ・・・」


なんのためのゴミ拾いだよ。

マスターは脱力感とともにつっこんだ。
にしし、と笑う一休はどうやら役得!とばかりにがめてきたらしい。 そこに他の二人も、止めはしたのだろうが結局は好奇心を抑えきれず一緒にやってきたというわけだ。
まあマスターも所詮男、気持ちは十分によく解った上に、やはり興味はいくらかあった。
ごほん、とひとつ咳をし、カウンター席、真ん前で開かれたそれを見る。
わりと名が知られたグラビアアイドルで、マスターと年が同じと言った方が近かった。
そうだよな、この年頃は大体、十代には出せない色香にやられるものなんだよなあ、とマスターはしみじみと昔を思い出す。 そして。


「おまえほんと年上好きなのな」
「こーいうのはやっぱ年上っしょ?同い年とか下ってなんか複雑じゃん」
「あーそういう話か。うん、確かにな。年上じゃないと、ちょっとぞっとするよな」
「そーそー。クラスメイトも、とかありえない話じゃねーしさ」
「嫌な世の中になったよなあ」
「おまえらいきなり萎える話すんなよ・・・」
「え?やだ、藍ちゃんたら結構乗り気だった?気づかなくてごっめーん」
「鼻へし折んぞ」
「いだだだ痛い痛い!!」
「ふん」


相変わらずの口喧嘩をしていたかと思えば、やがて三人の目線は写真集へ向かう。 三人で仲良く頬染めながら観賞している姿にマスターは呆れつつ、やっぱり身体共に男の子だと改めて実感した。 いや、いつもは女の子のように思っているわけではないが。

・・・・。


「おい・・おまえら、そのへんにしとけ」
「え?なんでだよ。あ、もしかしてマスター、これじっくり見たい?ならお貸しいたしましょーか」
「いやそうでなくて、」
「気持ちは解るって。これなかなか刺激的だもんなー。ほらこれとか超エロくて良くない?」
「へーなにがエロいの?」
「だからこのポーズが、・・・っ!!?」


マスターはほらだからやめとけって言っただろ・・と頭を抱えた。
そのとおりにすれば良かったと、三人は後ろを見て一気に後悔する。

――そこには腕を組み、仁王立ちする杏子さまがいらっしゃった。
その後ろに控えめにミケとサトがいる。二人は状況がよく解ってないようだが、杏子はしっかり把握していた。
杏子はにっこりと笑った。その一見爽やかなようでいてその実、果てしなく黒い笑顔に、これはまずい、と三人は思う。 完全に勝ち目がない。


「なに、してるの?」
「き・・休憩、です」
「へえ、わざわざ、本を持って?それ、なあに?」
「・・お、男のひみt「てかエロ本だよね」
「ちょっイバちゃん、だめだって女の子がそんなこと言っちゃ!!」
「言わせてるのはそっちでしょーが!ゴミ拾いさぼって何言ってんの!!?」


ブチッという効果音が聞こえそうなほど怒髪天をついた杏子の剣幕に満ちた声が店内に響き渡る。 ごうごうと黒いオーラに満ちた炎が彼女の中で燃え盛っているのを、その場にいる全員がひしひしと感じていた。
さぼった上にいけないご本を見ていたという負い目があるため、三人は何も言い返すことができない。 背中をつー・・と冷や汗が伝う。
その時、後ろからひょこっと杏子の顔を覗き込むようにしてミケが声をかけた。


「ねえイバちゃん、結局アイスどうするのー?」


その内容に、完全に傍観者を決め込んでいるマスターはタバコをくわえながら天を仰いだ。
こいつ空気読まねえ・・!!!!

だが杏子は脱力する気も起きないほど怒りの気持ちが強いらしい。
青筋を立てた笑顔のまま、ミケに向き直る。直視したサトが思わず震え上がった。


「そりゃもちろん、私たちだけで食べよう」
「・・え?い、イバちゃん、いいの?」
「いいんだよ。キュー達はどうやら男の子の時間を過ごしたいみたいだから・・ね?」


サトの困惑の声にも、杏子はさらりと笑顔で流す。
最後の「ね?」は勿論強く男子に向けられたもので、笑顔で同意を強いられた彼らは更に重く沈黙した。
杏子の言葉で、ミケは素直にアイスを一本多く食べられる!と喜ぶ。 男性陣の気持ちなど微塵も気にしていないと、ミケの輝く瞳から悟ったクロがなんともいえない表情になる。
杏子の言葉に戸惑う三人を代表して一休が声を上げた――もっとも、さっきからほとんど一休しか言葉を発していないが。


「ア、アイスって何、イバちゃん?」
「ん?最後まで頑張ってくれた人にはアイスの差し入れがあるんだって。ほらこれ、私たちにってね」
「いやでも、俺らだってゴミ拾いやったじゃんか!もらえないのはおかしいだろ?!」
「・・話聞いてた?『最後まで』頑張った人に、・・・・だよ?」
「・・・・」


ですよね。

男子三人の心の声がぴたっと重なる。
その時、後ろで聞いているミケとサトは必死に笑いをこらえていた。
実は『最後まで』は杏子が勝手につけた条件だ。その理由は、言わずもがな。 そして、その条件に見事に翻弄されている男性陣のうろたえぶりがまた可笑しかった。
杏子はなおもにっこりと笑う。 お願いだからその笑顔も軽蔑に満ちた冷たい目もやめてほしい、と願う男三人の声は残念ながらどこにも届かないようだった。
無駄な足掻きだろうとは思いつつ、一応提案してみる。


「・・杏子さま、ご慈悲を」
「涼しい場所へ逃げた人にそんな優しくできるとでも?」
「・・・・」
「あまつさえ、いけないご本まで盗んでね?親も含めてみんなが聞いたらなんて言うかな」
「・・・・!」


そして、とどめの一言。

「ねえ、あんたたち。一生の友情と一時の快楽、どっちを選ぶ・・・?」
「「「もちろん友情を選ばさせていただきます!」」」
「言うべき言葉は?」
「「「・・さぼって本当にごめんなさい」」」


ふう、よろしい。
――じゃあみんなで食べよっか、早くしないとアイス溶けちゃう。

やっと杏子のいつもの笑顔が現れて、空気が和やかになる。
マスターも胸を撫で下ろしつつ、その年で脅迫という手段を身に付けた杏子を末恐ろしく感じた。 もちろんすぐに謝らない三人が悪いのだが。
そして、ほっとするキュー・クロ・マモルの三人はそっと心に誓った。

もう二度と、この最強の幼なじみを怒らせる行為はするまい、と。



しかし、こういうのは陰でこっそりやるべきだな、とまるで進歩がない反省が後からこっそりおまけに付いてきたことは内緒だった。



「おいこれどーすんだ」
「・・・マスターにあげるよ」
「(・・・欲望に友情が打ち勝ったな・・・)」





不 健 全 な 誘 惑

(だって男の子だもん!)





08.11.09.aoi
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おまけ↓

「まったく、男ってバカなんだから」
「辛辣だねえ・・・。?どーしたイバちゃん、なに考えてんだ?」
「え?うーん・・ただ、さあ」
「うん」
「月と星が将来あんな風になると思うとなんかちょっと複雑」
「ははっ。心はすっかりお母さんだなイバちゃんは。 ま、しょうがねえよ、男はみんなあんなもんだ。あいつらがイバちゃんにべったりのままでもヤバイだろ?」
「そりゃ、やっぱ人並みに女の子を好きになってほしいし」
「だろ?あんなこともしないやつぁ、マザコンかゲイかなんかだろ」
「そうだよねえ。ああ〜でもほんとあんなところ見たくなかった・・」
「え、あ・・ま、まあまあまあまあ!!ほら元気出せってこれ奢りだ飲め!な!?」
「はあ〜・・」
「ため息つかないでー!」


同じ男としていたたまれないマスター。