「ほらっ、一休起きな!!」



僕はまだうつくしい朝を探してる





一休って呼ぶんじゃねえ!と飛び起きる朝は恒例で、家族はみんな慣れたものだ。
ああ、いやだいやだ。こんな目覚めは最悪すぎる、と機嫌悪く頭を振るのも当たり前の仕草だった。 いつまでも目覚まし時計のアラームで起きない自分が悪いと解ってはいるのだけれど。
支度を終えてご飯を食べに降りれば、父がすかさず毒づく。


「おまえ、まあだ自分の名前気に入らねえのか?自分の歳を考えてみろ」
「わーってるって。条件反射なんだっての」
「やっぱり気に入らねえんじゃねえか」


口論がヒートアップしそうなところに絶妙なタイミングで母の仲裁が入る。 そうして一旦口を閉じて、目の前の食事に専念するのだった。
ん、今日も美味い。 こうして美味しい朝ごはんが食べられるのはありがたいこと、素敵なことだとは思う。
けれど・・・・。


まだまだこれから、素敵な朝にできるような気がしてしょうがなかった。
こんな、口喧嘩や不満が混じるのではなく。 窓から射す光や、もっと綺麗でうつくしくやさしいもので迎えられる朝を、まだ探している。












「んー・・・・」
「キュー、起きて?もう時間だよ」


ぼんやり眼で自分を揺する存在を見上げた。・・・・ああ。


「イバちゃん・・・」


呟くと、彼女は笑った。
なに寝ぼけてんの、ほら起きて。私はもうご飯作らなきゃなんだからね。
ふはっ、と思わず笑ってしまった。小鳥のさえずりがかすかに聞こえ、部屋に入る光がまぶしい。そして。
?と思いきりハテナマークを顔に浮かべている、俺の、妻。


「キュー、なんで笑ってんの、っきゃ!?」
「あー・・・こういうの。しあわせだよなー・・・」
「んっ、・・・苦し・・・!ちょっとキュー何するのよもうー!」


じたばたともがく杏子を腕の中に閉じ込め、ぎゅうと更に抱きつく。彼女の耳は真っ赤だ。 それに少し、笑う。


「なあ。俺、高校生ん時、思ってたんだ」
「?なにを?」
「親にも朝食にも恵まれていたけど、でもこんなもんじゃないってさ。 もっと、しあわせな朝があるはずだって」
「・・・それは贅沢じゃない?」
「今思えば、な。でもあながち間違いじゃなかったぜ?」
「え?」


ゆっくり、力をこめて抱き直す。
彼女の柔らかくあたたかな身体が、心地良かった。


「・・・イバちゃんに起こされるのはもっとしあわせだってこと」


その時もぞ、と杏子が身じろぎするので、ちょっと距離を離してやる。
途端に、どきりとした。まっすぐな瞳が、こっちを見ていた。
杏子の手がのびて、俺の頬にそっと触れる。そして、彼女は微笑んだ。


「私もしあわせ、だよ。・・・こうして毎日キューを起こすことができるなんて思わなかった。 キューの髪をずっと撫でることだって、こうやってそばで寝顔もどんな顔も見ていられるなんて」
「・・・うん、俺も」


あの時感じていた、足りないピースは未来にあったのだ。
こうして愛するひとの声で始まる一日、それがどんなに心を満たすことか。
こんな日が来るなんて、俺はきっと世界一の幸せ者だろう。


頬に添えられていた彼女の温かな手を取り、口に寄せる。
唇にそっと触れられ、杏子は思わず、ん、と声を漏らした。
ぎゅっと目をつむって赤くなる彼女に、胸に満ちる幸福感に、どうしようもない愛しさに。


俺はまた心から笑顔になる。











(君がすべて、持っているんだよ)





* エナメル、is,

09.02.01.aoi
::::::::::::::::::::

桐谷さまに捧げます^^
リクエストありがとうございました。