その日は春一番だった。

「きゃあっ」

あちこちから悲鳴が聞こえ、その中の一人の泉水子は、勢い良くはためくスカートの前を押さえて目を瞑った。
まるで山の神が反乱を起こしているように荒れ狂う風に、桜吹雪が舞う。

「…っ」
「――鈴原!」
「っ!?」

ガッといきなり後ろから伸びてきた腕に肩を抱き込まれて、別の意味で悲鳴を上げそうになった。
が、落ち着いてその声を分析すれば、よく知った人物が浮かんで身体の力を抜く。
風と闘う間、包んで守ってくれているかのような温かなぬくもりに安心していた。






「ありがとう、相楽くん」
「…いや、別にお礼を言われるほどじゃない」
「でも、私飛ばされそうだったから…。すごいね、嵐みたいだったのに動けるなんて」

やっと平穏が訪れたあと、泉水子の賞賛のまなざしは深行に向けられた。
だが深行の、たまたま近くにいただけだと弁明するその顔は、怒っているように険しい。

「おまえ…なんでそんなに隙があるんだよ」
「え?」
「あんなポーズ、男にとって格好の餌食だぞ」
「…???」

泉水子は暴風に襲われただけだ。それなのになぜこんなことを言われなければいけないのか、ちっともわからない。
ハテナマークを浮かべて深行を凝視していると、深行は舌打ちを小さくかまして、 用があるからと、やけに素っ気なく背中を見せて歩き出す。
そんな深行に、泉水子は小さく首を傾げた。

(なんなんだろう…。そういえば熱でもあったのかな?どこか赤かったような…)

しばらく考えるが、深行が勝手に不機嫌になるのはいつものことだとひとり頷いて気にすることなく、再び寮へと歩き出した。
その時、ぽん、と肩に手がおかれる。

「泉水子ちゃん。すごい風だったね」
「真響さん!…どうしたの?」

なぜか真響は、くくく、と笑いを噛み殺している。

「泉水子ちゃんの華麗なパンチラ、見ちゃった」
「えっ!?な、なんで!…というかそれで笑ってるの?」
「あははっ!むくれた泉水子ちゃんてほんと可愛い!――いやね?私は昇降口の中にいたから比較的目を開けられたの。 そしたら相楽が焦って泉水子ちゃんのところに向かっていくじゃない。もうそれがおかしくって」

だってたかが風だもん。でもすぐにその理由がわかってね。
と、なおも笑いながらって続けた。

「良かったね、相楽のおかげで目撃者は最低限に抑えられたと思うよ」

その言葉に、泉水子の恥ずかしさで赤くなった顔は、きょとんとした顔に変わる。
そんな泉水子に、真響はにっこりと笑った。

「相楽が後ろに立ったおかげで、スカートが隠れたでしょう」

一瞬考え――泉水子は、ああ、と納得し、改めて機転が利く深行に尊敬の念を抱くのだった。
詳しく言えば後ろを庇っただけでなく抱き込まれたのだけれど、今の泉水子の頭にはその事実は塵と化して、ひたすら感心していた。
だから気がつかなかった。一部始終を見ていた真響が不敵な笑みを見せて呟いた言葉に。


「ま…今頃あいつがどんな顔をしてるかは神のみぞ知る、でしょうけどね」








パンチラに欲情しましたなんて

言えない




(…思春期なんだからしょうがないだろ!)





t.佐智子


--------------------

モンローの有名なポーズありますよね。おそらく泉水子ちゃんは無意識にそれをやり、しかも黒パンを履いてないという。
男にとってパラダイスですね。みゆっきーがムラッとくるわけですね。←

2011.01.16.aoi