なぁ、イバちゃん、知ってる?オレは一つのことに夢中になったらもうそれしか見えなくて。 突っ走っちゃって気持ちの切り替えもうまくできないタチだってことをさ。

あ、知ってる?・・・そんなのアス姉のケースを見りゃ誰でもわかる? あー・・・うん、まあ、な・・・。


えっと、話続けるけど。

・・オレ、そのうえ未練たらしくてさ、なかなか諦めることもできないガキっぽいところがあるっていうか。え? おう、オレちゃんと自覚してんだぜ、偉いだろー?

・・ちょっとイバちゃん、なにその呆れた顔?偉いだろ?って聞いたんだからうんとかなんとか言えよ。 ってもっと冷たい目をするな!!もうまじめに聞いてよイバちゃん―――オレがふざけるからいけない? ・・すんません。うん、だからあの、な。その怖い顔やめようや、もうキューくん泣いちゃうッ――― わわわわごめんごめんごめんなさいイバちゃん!!!!だからその拳おろしてくれー!!






こほん。

あー・・・あの、さ。


オレさ、まだ諦められないんだ。今でもまだ心の90%くらいアス姉が占めててさ。どーしても心から追い出せねえの。 おまけに自分が違う方に向くこともできないし。自分でも呆れるくらいぞっこんだったんだなーってわかった。


・・・・オレ、イバちゃんのことめちゃくちゃ信頼しててめちゃくちゃ頼りにしてんだ。 ―――本当だってば。イバちゃんを信じないやつがいたら大馬鹿者だって思うくらいなんだからな?

だから服が破けたらついイバちゃんのところに行っちゃうし。なんかあった時はイバちゃんの言葉が一番信じられる。 しっかりしてるから、オレいつも心のどこかで甘えてんだ。イバちゃんに。 あと時々呆れた顔するけど、なんだかんだいって助けてくれるよな。 ・・いろんな意味で感謝してるし、人間として尊敬もしてる。

だっておばさんが亡くなったの、まだ12歳の時だぜ? その時から母親代わりに家事をやりながら、月と星を育てて桃の面倒を見て、店も手伝っておじさんを支えて。
・・・・すげえよ。昔からずっとそう思ってた。オレには到底できないことをイバちゃんはいつも笑顔でこなしている。 自分のことをやるだけでも大変なのによ。それがすげえって。


でも、さ。オレ、別にイバちゃんが強いって信じて疑わないわけじゃねえよ。
思うんだよ、やっぱり。もっとオレらに頼ったらいいのにとか。もっと弱音吐いてもいいんじゃねえの、とか。 もちろん、そんなことしないのがイバちゃんの性格だってわかってるけど。


けど、最近イバちゃんがすげえ女の子に見えるから。 時々、泣きそうな顔だとかつらそうな顔だとかちゃんと見えるようになっちまったから。

・・・だからなんかほっとけないし、そばにいてやりたいし、つらいことも哀しいことも全部ぜんぶ聞いてあげたいと思う。 恋とか愛とかそんな名前つけなくってもさ。イバちゃんはオレにとってすごくすごく大事なひとだから。


あー・・・だから、な?オレはまだ確かにアス姉が好きだけど。 なのにこういうこと言うのってなんかずるいかもしんねえけど。 ・・・でもオレの知らないところでイバちゃんが幸せになるのもなんかイヤ、なの! イバちゃんの支えにこれからもなっていたいっつーか・・・。

イバちゃんの気持ちに今すぐは応えられないけど、・・こういう気持ちはちゃんとあるから。


――――――それでもいい?









バフン!

「ぃだっっっ!?」





「〜〜〜ばか、『よくない』なんて言うわけないでしょーが!! こっちも片想い歴は半端ないんだからね。だめって言われてすぐに諦めがつくような軽いもんじゃないんだからね!」

「っぶ、てっ、いだっ、痛い痛いわかってるってわかったからおちつけイバちゃんーーーー!!!とりあえず クッション投げるのストップストップ!な!?」

「・・・・っ・・・、何年あんたのこと好きだと思ってんのよ・・・」


ぱちくりと目を白黒させたものの、すぐに照れくさそうに、でもまぶしいほど無邪気にキューは笑った。 彼が「イバちゃん、それけっこう殺し文句だな、」なんて嬉しそうに笑うから。
杏子の瞳から、涙がほろりと一粒こぼれおちた。


「え!?わ、イ、イバちゃん泣くなって!」

「泣いてないよ」


杏子はそっぽを向いて目尻の涙をぬぐった。
そうしておろおろとしているキューを横目でちろ、と見れば、自然と口元に笑みは浮かぶ。


・・・良かった。想いは拒まれていない。気持ちがうっかりばれた時はどうなるかと思った。
もしかしたらこれはキューの精一杯のやさしさで、ほんの少し同情のかけらが入っていたのかもしれないけど。
でもそれは、キューをよく知らない人間が持つ疑念だ。
杏子は知っている。



―――――キューは良くも悪くもうそがつけないひとなのだ。



だから言ってくれた言葉はきっとすべて本物。レプリカなんて、どこにも存在しないと信じていい。

「ありがとう、 キュー」

そう呟いて横を向くと、キューはやっぱり少し照れくさそうに微笑んでいる。
それを見て杏子は安心したように小さく笑った。







これからの日々がどう変わるかなんてなにひとつわからないけど。
もしかしたら別れはすぐそこにあるのかもしれないけど。


その日見上げた空は雲ひとつなく、ただ、ただ青く澄みきっていて、その青さに杏子は願う。


いまのしあわせな時間がずっと続くように。
これからの世界がずっとこうでありますように、 と。








強く強く、願った。









青 の 世 界


(可能性の色)









07.11.aoi
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イバちゃんが自分の気持ちをキューに伝えたあとの話。
もしそうなったら、キューはそういうとこまじめだからちゃんと考えて考えて、
後日こんな風に言ってくるんじゃないかなーっていう想像から生まれました。