キューとふたりで帰る、夜の道。

わ、すげえ星・・・、と隣を歩くキューがふと見上げて呟くから、杏子もそれにならった。
そして、目にした瞬間、息することも忘れた。

――――――確かに。

まだ満天の夜空というものが存在するのだと思った。それほどに星の数は限りなく、まばたきするのも惜しいくらいに美しい。 時が止まったように、杏子たちの足も身体も地面にくっついて離れられない。
ああ、でも、あの日の夜空の方がはるかに、


「でもあの日にはかなわねえな」
「!」


そのタイミングの良さに、まるでテレパシーかと一瞬でも疑ってしまう。杏子は苦い笑いをもらした。


「偶然だね、わたしも同じこと思ってたよ」
「まじで?そっか、やっぱりそう思うよなー」


あの時わたしたちはいくつだったっけ。確か小学生で、まだまだ恋というものもよく知らなかったころ。

そう考えて杏子の胸は痛む。横を見れば、一足先にキューの呪縛はとけて、歩きはじめていた。 杏子もすぐにキューの後ろを歩く。目の前には、キューの広い背中。


背、高くなったな。キューは昔から成長が誰より早かった。顔も体つきもだんだん男っぽくなってきて、かっこよくなった。 一緒に街を歩けば、必ず女の子の小さな歓声や噂が聞こえる。思わず嫉妬してしまうほどに。

でも。

その顔も身体もそして心も、みんなみんなあの女(ひと)のもので。 彼もきっとあの女(ひと)にだけすべてをささげるのだろう。 一番いい笑顔も、すねた時の仕草や表情も、大人ぶってみせるところも、永遠に輝いていそうな無邪気な心も、みんなみんな。 その命まるごと、あの女(ひと)にしかあげたくないと思うのだろう。 たとえ、彼女の心がキューに向くことはなくても。

それほどに彼の彼女への愛は深くて・・・かなわない。
そう思えば、急にキューの背中がぐんと遠くなった気がした。


見慣れた街灯が、地面と彼の後ろ姿をほんのりと照らしている。
白く光る、そのうしろ姿。ほんのすこしだけまだ、幼さの残る背中。
一瞬でもいいから、思いきり抱きしめることができたらいいのに。


杏子は泣きたい気持ちで彼の背中を見つめつづける。


ねえ、キュー。あの日の星空はとてもとても綺麗だったよね。輝いていた。
・・・でもわたし、本当はそれよりもずっとずっと強く光る星を見つけてしまっている。 そう、なによりも強く光るから、いつのまにかそれが中心になっていて。 いつもわたしの目にはまぶしくて、そらしたい。でもそらせない。

ほら、いまこの瞬間も、瞳はあんたにとらわれている。ずっとそのいとしい背中を瞳に焼きつけていたいと思う。 まぶしくて目がつぶれそうになっても、それでもなお。
背中だけじゃないよ、いつも目にするたびあんたの要素すべてすべて、この瞳に記憶させる。

キューがわたしのものにならないのなら、せめて、と。



ねえ、あんたはしらないだろうね。
いまわたしが泣きたくなるのも胸が痛くなるのも、たとえどんなに苦しくても、それでもこうしていたいと思うのも 。



その答えはいつも、ただひとつだけってことも。








星 が あ な た を 巡 る 理 由

(あんたのことが、すきだから)








* 9円ラフォーレ

07.11.aoi

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いつのまにか彼が世界の中心になっていた。