マモルは、手紙が良いと言う。
メールだとすぐに会えそうな気がして寂しさに負けそうになるから、と。 その点、手紙は充分なタイムラグがあるから、時間的にも精神的にもちょうど良く安心感があるらしい。 交換を始めてからは、毎日が待ち遠しく楽しくなった、とも言っていた。
そう聞いた時、サトはいつにない彼の人間らしさをそこに見いだした気がした。
いつも何を考えているか解らないマモルも、 当たり前に自分と同じような感情を持つのだと知ってなんだか嬉しかった。
思えば、彼が遠い地に旅立ってからの交流は、毎日近くにいた時よりもずっと、なぜだか鮮やかな花を咲かす。
離れてこそ知ることもある。 そして、それが今までの日々を越えて胸に確かに刻まれるのは、 どんな些細なことも逃さないようにと身体が自然にアンテナを張るからだった。 振り返ればそこにいる、当たり前だと思っていた日常にマモルはいないのだから。
たぶんそれだけなのだと頷いて、サトは便箋を取り出す。 先ほど届いたマモルからの手紙を側に、さらりと書き始めた。
離れてから四ヶ月もたった今では、すっかり書き出しが決まってしまっている。





マモルくんへ

お元気ですか?こちらは相変わらず、私も皆も元気です。
今、風邪が流行ってるけど大丈夫ですか。

そうそうマモルくん、いつも私に手紙をくれるのは嬉しいんだけど、他の皆にも書いてあげてね。時間があればでいいから。
マモルくんが私にしか書かないから、薄情者だと悪い評判が広まっちゃってるよ? 特にキューちゃんとミケがブーブー言ってるかな。 クロちゃんとイバちゃんは、マモルだからしょうがないなんて言って呆れながら笑ってます。 ミケたちの気持ちもよく判るから…よろしくね。

もうすぐ夏が来るね。でも北海道は涼しいんだよね。いいなあ。 また面白い話聞かせてね。そっちの様子聞くと北海道行きたくなっちゃうから大変だけれど。あと愉快なお友達の話もね。

いろいろ書きたいこともあるけれど、漫画の締め切りが近づいてるから今回は取り急ぎこれで失礼します。 短くてごめんね。
じゃあ、またね。

サト





サトへ

お手紙ありがとう。サトから来るのいつも楽しみだよ。 風邪も引いてないし全然平気。サトこそ熱出しやすいんだから気をつけて。

もう夏になるね。そっちは暑いかな。ミケが海に行きたがる頃だよね。プールだったっけ。
でもとにかく誘われても水着姿を他の男に見せないでよ。わかった?

あと、手紙はしょうがないよ。なんだろうね。こういう手間をかけることはサトにしかしたくなくなっちゃうんだよね。
キュー達には代わりに電話することにするよ。 おかしいけどね、離れる時に皆には手紙を書いてサトには電話するって言ったのに。 でもいざ始めてみれば、サトには手紙も電話も両方したくなった。電話の方が多いけど。

サトと同じく、学期末試験が迫ってるから、これぐらいで勘弁。ごめんね。 試験が終わったらまた電話するから。じゃあね。

マモル


追伸
八月になったら北海道においで。サトと二人でいろんなところ行きたい。





かさりと音をたてた、たった一枚の手紙にサトはため息をついた。

「…マモルくんて、なんでそんな恥ずかしいことばっかりサラッと書くんだろう…」

手紙をくしゃりと握りしめてサトはうなだれた。
マモルの好き好き光線が紙からも伝わるようで、読む時には思わず身構えてしまうのは常だ。 そして読んだら読んだで、やっぱり傍で愛を囁かれてるのと変わらない気がするのだった。
自分は密かな片思いをしてただけに、こういった攻め方をされるのは慣れてない。 そもそも自分に好意が向くとは思えないために尚更だ。
はあ、と赤い顔でまたひとつ息をつく。
初めての手紙をもらった時には、普段無口なマモルは文の上では雄弁になるのだと知り、 そして愛を語るに恥じらいが生じないところは口調とともに変わらないのだと驚いた。
一体彼はどんな顔をして書いているのだろう。 そうは思っても、無表情ではなくサトに時折見せる優しい微笑みの表情で書いているのだろうと、 なぜか確信めいたものがあった。

忘れられない話がある。
一度だけ、弱音を吐いた時があった。心が折れそうな時、それでも愚痴を並べまいとさりげなく書いた、自分の弱さ。
後から思えばふにゃふにゃしていて情けなく作り笑いがつまった手紙に、彼は三日と経たずに返事を返してきた。 電話ではなく、手紙には手紙で返す、そういうところにマモルの律義さが表れていた。
手紙はいつも、マモルの静かな微笑みさえ運んできてくれた気がした。

『大丈夫だよ』


『どんなサトでも、俺は世界で一番好きでいられる自信があるよ』



思い出していっそう真っ赤になる。何度思い返しても愛の告白としか思えず、戸惑う。 いったい自分の何が彼をこうさせるのだろう。
でも、悪くはなかった。むしろ好きだった。 便箋を通して語られる愛の言葉が、いつから心地よさも覚えるようになったのか、サトにはわからなかったけれど。
傍にいた時よりもずっと優しさをダイレクトに感じて、マモルを思い浮かべるたびにいつのまにか微笑むようになって。
些細な発見も優しさも、マモルが傍にいないから強く感じるだけだと思っていた。 でも、本当はそうじゃないのかもしれない。マモルの静かな愛に包まれると、サトはいつも安心できた。
そこまで考えて、サトは身体から力を抜いて椅子の背にもたれた。


今度の書き出しは、いつもと違うものにしてみようか。今度は自分の番だ。正直に、伝えよう。 彼はいつもいつでもさりげなく、たくさんの「好き」を伝えてくれていたのだから。
夏には彼のもとへ行ってみよう。一緒に、夏の思い出を作ろう。
熱くなりつつある頬を押さえながら、サトは笑うしかなかった。



ゆっくり進んでいくこの恋に、手紙はぴったりだったのかもしれない。









恋  愛  書  簡 



(遅く届いたラブレター)(きみはどんな顔をする?)





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初マモサト。直接的な話はまた機会があったら。
両想いで付き合う一歩手前にしてみました。 やっとサトの気持ちが追いついた感じですね。ほだされつつも、結構時間がかかるタイプだと思います。


拍手でリクエストを下さったマモサト好きさんに捧げます。




09.9.1.aoi