ブログ上のSSをまとめました。多少加筆してます。




あほらしい。

杏子は商店街である光景を目の当たりにし、マスターと、キューを除いたマブダチにチョコをあげてさっさと家業の手伝いにいそしむことにした。
キューは何も知らずに、商店街の真ん中で女の子に囲まれキャーキャー言われている。
チョコをもらってはチョコをあげている、そのサービス精神には参る。ホワイトデーの時はどうすんだ?と思わないでもなかったが。
一番星にてチョコを配った際、クロは「あいつもアホだよなー…」と半目で呟いていた。全くだ。
「イバちゃんのチョコが食べられないなんてね!」とミケは言うが、いやいやそこじゃないよ。そこじゃない。
「キューはちょっとデリカシーがないよね」とマモルが呟き、
「あ、今度マンガにキューちゃんをモデルにした人出そうかな…脇役で」とサトがキューが聞いたら可哀想なことを言った。
「それは当て馬的な感じなのか?そうなのか?」とマスターが憐れんだようにつっこんだ。
わかってくれてる人がいるから、杏子は少し心が軽くなった。 私の気持ち、誰にも言ってないはずなんだけどなあ、という疑問はもう気にしないことにしている。救われて、いるから。


数件の配達を終え、もう藍色の闇が銀河町を包み始めたころ、キューと家の前で遭遇した。というかキューが待ち伏せしてたらしかった。
キューは杏子に気づき、おっせーよ!と真っ赤な鼻をして駆け寄ってきた。

「イバちゃんどこ行ってたんだよー!せっかくチョコあげようと思ったのにいねえんだもん」
「配達に行ってたの。…いっぱいチョコもらったんでしょ?」
「もらったけどこっちもいっぱいあげたぜ。モテる男はこういう気遣いもできないとな!」
「やらんでいいっつの」
「ん?その袋なに?」
「ん、これ?配達先でもらったの」

杏子が両手にぶらさげている数々の袋に、杏子はどうやら逆チョコはキューだけじゃないみたいよ、と苦笑した。
それに対してキューはなぜだか顔を顰める。

「…なんだよ、じゃあ俺があげてもちっとも感動もなにもねえじゃん」
「あのね、それ以前にあんたがたくさんの女の子にあげてるの見たら感動も何もありません」
「それにそれ、男からもらったんだろ?」
「え?」

拗ねたような口ぶりに杏子は思わず目を見張った。
何を言ってるんだろう、こいつは。
それは、杏子が「たくさん女の子からもらったんだからいいでしょ?」とすっかり心を曲げてチョコをあげないと決める、子どもじみた心境と同じようなものだ。
まさかそんな言葉を聞くとは思わず――いや、早計は自らの首を絞める。 期待してはだめだと杏子は心の中で首を振った。 それにこいつは子どもじみた、ではなく。子どものようなものなのだから。
染まりそうな頬をなんとか知られないよう、冷静に口にする。

「………キュー。これ、さ。坂井のおじいちゃんおばあちゃん、小泉のおじさん、真田のおじいちゃん、七瀬さんとこのアキラちゃんがくれたやつ…だけど」

すべて恋愛対象には入らない人たちばかり。アキラちゃんなんてまだ小学三年生だ。
真相を告げたあとのキューの顔ったらおかしかった。ぽかんとして目を見開いて、やがて自分の早とちりに、かああと顔を赤くした。

「そ、そっか。……わりい……あー俺なんか超恥ずかしい!」
「キューはいつも恥ずかしいよ」
「おいっなんだそれ!!」

杏子は笑ってしまって、そんな可愛い彼に百歩譲ってチョコをあげてもいいかと思えた。
置いてくるからちょっと待ってて、とさりげなく中に入って台所に置いといたチョコを手にする。 それを見た桃子がふんわり嬉しそうに笑って「いってらっしゃい、」と言うから照れくさかった。
戻るとキューは白い息を吐いて待っていた。もう、月が姿を現していた。

「キュー、あげる」
「ん?え、チョコ?」
「そう。あと、これ。寒い中待っててくれたお礼」

キューの手に渡ったのはシンプルにラッピングされたチョコガナッシュと、じんわりと温かさが伝わるホットココア。
急いで用意したから味は保証できないけど。そう言ったら、キューは「イバちゃんの作るもんはいつも美味しいよ」と笑った。

「じゃあ、俺も。なんか今更だけどさ」
「ん、ありがと……って、あれ?」

確か女の子たちに渡してたのってチロルチョコじゃなかったっけ。可愛い、と女の子たちが騒いでいたのを見たように思うのだけれど。
ところが、いま手にしているのはそんなものじゃなく、ちゃんとバレンタインフェアで売っているような、女の子らしくラッピングされたチョコレート。あれ??
そのまま疑問を口にしたら、キューは飲んでいたココアを吹き出しそうになり。

「…なんで真っ赤になってんのよ」
「し、しらねーよ!つーかなんでイバちゃんそんなこと知ってんの!?そこまで見てないと思ってたのに」
「たまたまだよ。で、なんで違うの?」
「べ、別に深い意味なんてねえよ、あってもいわねーし気にしないで食え!」
「………ココア没収してやろうか」
「あっ、熱い、触るなって、いやなんでもないわうん、ああああ持ってかないでごめんなさいイバちゃん!」

ぎゃあぎゃあ騒いで、父に「中に入ったら」と仲裁を受け、結局は仲良く晩御飯を食べ、うやむやになってしまったのだけれど。
特別なものをもらったと自惚れてもいいのかと、二人がそれぞれこっそり思案する、幸せな夜だった。



(ひとりだけ違うチョコ?)
(ホットココアなんておまけをもらったのは俺だけ?)




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09’VD。
チョコ売り場に行った時「これ可愛いなあ。イバちゃんにあげてえなあ」と一人にだけ違うチョコを買っちゃったキューがいたらいいと思って。 しかもその理由に気づいてない無自覚さんだとなおいい。というか嫉妬も無自覚なら素晴らしく萌える。





月が、明るい。暗い夜道の中で、それはたったひとつの道しるべだった。
人は、いない。当たり前だった。だって店はもう閉まっている時間で、でもどうしても買いに行かなきゃいけないものがあった。 だから仕方なく私は家を出て、てくてくと歩いているのだ。
そしてその帰り道、まさかまさかと思う出来事に出会った。 …いや、こんな冷静に話してる場合じゃないんだけど。腕、掴まれてるし。ねえ、と猫なで声で絡んでくる酔っぱらい、ああとても気持ち悪い。 この怪力な私が振りほどけないなんて、どんだけなの!

ヒュッと風が吹いた。

その瞬間、私の身体を触っていた男は目の前から消え、誰かの足によって吹っ飛ばされていた。
顔を上げて、見る――息を、呑んだ。

「キュー…!?」
「てめー、俺の嫁に何してくれてるんだよ、ああ?」

ボキ、バキッと指の骨を鳴らしながら男に近づいてくキューは、完全に頭にきていて、私の言葉など届いていない。

「返答次第ではボッコボコに潰してやるけど?これでも昔はやんちゃしてたから…腕は確かだぜ」
「す、すいませんでした!」

電光石火の展開に、あっけにとられた。
あっさりと酔っぱらい兼痴漢は恐れおののきながら走り去っていってしまった。今の衝撃と恐怖で酔いは醒めたに違いない。
キューがゆっくり振り向いた。
――怒っている。居心地の悪さに、もじ、と身体を揺らした。

「…ありがとう、キュー」
「…イバちゃん。ひとりで夜に出かけるとか、何考えてんの」
「…だって、ちょっとだけの買い物だったし、腕っぷし強いから大丈夫だと思ったし。まさか私にあんな・・・迫ってくる人がいるとは思わなかったから」
「……はあ…勘弁してよ…」
「え?」
「あーっ、もう危機感なさすぎ無防備すぎ!あのなあ、どんなナリしてても何歳でも腕っぷし強くても、結局イバちゃんは女なんだよ!!」
「!」
「立派な『女』だっつうの。理由はそれだけで十分なんだよ、男にしたら」
「………」
「――だから気をつけてくれよ、頼むから」
「判った…」
「…ていうか俺、おまえの旦那だよな?」

真剣な瞳で問うキューにどぎまぎする。なんてことを聞くのか、私はいまだに夫婦という関係に慣れないのに。
赤くなってぎこちなく頷いたら、そっと目の前に来て、軽く私の手を握った。

「だったら、俺に守らせてよ。今みたいに絶対どこへでも助けに行くし」
「…バカ」

恥ずかしくて、でも嬉しかった。これ以上どうしていいか解らず、キューの胸に額を打つ。 握られた片手から、いっそう熱い熱が伝わってきた。彼が、強く、強く握りしめるから、しあわせに泣きたくなってしまった。


好きなひとに守られるって、こんなにしあわせなことなのね。





(新婚さん。痴漢から嫁を助けにきたキュー)






【キューイバ夫婦で買い物に行ったとしたら】

「……………」
「あー視線が痛いわー……」
「なんであんなにニマニマしながらこっち見てくんの…?ほんと気持ち悪い。生きにくい」
「見ろよ、あそこのばあちゃんなんて、すっげえ微笑ましげな顔してるぜ。あれ、絶対自分の若い頃を思い出してる」
「いつになく鋭いね」
「そりゃどうも。あ、これ買ってよ」
「はいはい。……まあ、でも他にも犠牲者はいるしね。なんとか耐えられる方だよね。まだ、ね」
「そうそ、あいつらも大変だよな」
「特に猫コンビね」
「言えてる」


「…でもこんなんじゃ手も繋げねえな」
「!ば、ばか、別に繋がなくたっていいじゃない…っ」
「お。あれーえ?イバちゃんもしかして照れてんの?ねえ?」
「ちょっとからかわないでよ、もう…あんたが変なこというから…!大体恥ずかしくてそんなのできるわけないじゃない」
「いーじゃんべつに。俺は人の目気にせずイチャつきたいし?」
「な…っ!」
「おいおまえら商店街のど真ん中で十分イチャイチャしすぎだ」
「あ、マスター」
「え、やだみんな見てる…!」
「そりゃデカイ声でバカップルしてりゃな」


【こんなこともあるかと】

「さーて次は、…………!」
「?キュー?」

一休は向こうに飛鳥を見つけた!(ポケ〇ン風)

「あっすかさああぁぁーーーんっ………フゴォアッッ」

一休は正面から飛鳥による一撃、背後から杏子による一撃をくらった!(やはりポケ〇ン風)

「「いっぺん死んでこい」」

どよめく商店街。レフェリー登場。

「おおーっと花咲一休、初恋の人と妻による地獄のダブルサウンド&パンチをくらいましたあぁぁ!!」
「いこ、イバちゃん」
「うん。今ちょうど八百幸行くとこだったんだ」
「そうなの?よーし、可愛い可愛いイバちゃんにお姉さんがたくさんおまけしてあげる」
「わー嬉しー!でもいいよ、八百幸が潰れちゃう」
「なに言ってるの、これぐらい大丈夫よ。ところでイバちゃん、あたしが言うのもなんだけど。 ほんとにあいつでよかったの?未だにあんなことするなんてほんとバカとしか言いようがないわよ」
「そうだよね。今からでも遅くないかな」
「十分間に合うわよ」
「お二人、姉妹のように仲良く去っていきます。夫を簡単に置いていくイバちゃんの潔さが見ていて気持ちいいくらいですねえ」

うんうん、と一様に頷くギャラリー。

「で、花咲一休、敗因はなんでしょう」
「……長年やってきて染みついてしまった癖、かね……ガフッ……」
「!?おーいキュー!!?誰か!誰か担架あぁぁぁぁ!!!!」





(癖……飛鳥を見るとところ構わず飛びつき愛を叫ぶこと。)




「イバちゃーん、あけおめー」
「略さないの。あけましておめでとう。今年もよろしく、キュー」
「おう、よろしくなー。…てなになに、これお雑煮?うわーうまそー!!な、な、オレも食っていい?」
「しょうがないなあ。まあ、多めに作ってあるし。いいよ」
「やった!!」
「?あんたんちでは作らなかったの?」
「すみれちゃんは親父と初日の出デートしてんの。まだ帰ってきてねえ」
「今年も!?…作り置きすらしてくれなかったんだ?」
「子どもひとりぐらいどうにかなると思ってるんだろうな。うっ…なんか涙がでてくるぜ」
「よしよし…。にしても、変わらずラブラブだねえ。そんなデート、今時のカップルでもなかなかしないんじゃない」
「かもなー。お、こたつ。うおーあったかい!!さみしい独り身にしみるわー」
「その年で独り身ってあんた…。それを言ったらわたしも同じなんだけど」
「あー…。…イバちゃんってさ、好きなひと、いねえの?」
「な、……そんなこと別にいいでしょ。わたしは家でキューとこうしているだけで満足だからいーの!」
「…ふーん。そっか」
「うん、そう」
「……………」
「……………」
「………………なーイバちゃん」
「…な、なに?」
「たぶん来年もまたあのふたり出かけるだろうからさ、どうせならオレここで年越ししていい?そうすれば起きたらすぐイバちゃんお手製のお雑煮食べれるじゃん?」
「え!?あ、いや、わたしはいい、けど」
「んー、我ながらグッドアイディア!な!!オレ今決めたわ、たとえ親父たちがデートしなくてもイバちゃんちに行くわ。うん」
「へっ!?そ、それ、いいの?」
「うん、イバちゃんと年越しとか楽しそうじゃん」
「…そう?」
「うん、そう」
「…………そうだね。わたしも楽しみだよ」
「おお、じゃ約束な。来年は一緒にカウントダウンしようぜ」
「うん。じゃお雑煮持ってくるね」
「おう、サンキュー!」





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新年のふたり/キューイバver.

杏ちゃんたら、さらりと爆弾発言です。 それにちょっと気持ちいいものを感じたんでしょうな、キューさんまでなにげにすごいこと言ってます。 調子乗ってますね。イバちゃん相手だとつい甘えちゃうんでしょーね。

キューは無意識に「イバちゃんと一緒に暮らしたらいいだろうなあ」的なものを抱えているといい。
いや、だって一緒に寝て(待て待てなんか語弊が)朝にはイバちゃんのごはんが食べたいー、ですよ。どう考えても夫婦になりたがtt(強制終了)
そんでもって親父さんたちに放られるたびに「イバちゃんかまってー」だともっといい。





【正月】

キューはあらゆる着物の女の子(注:マブダチをのぞく)に「普段のみんなも可愛いけど、着物を着たみんなはもっと可愛いね」とか言う。
はあ。呆れるしかない。


「まったく…キューはほんっっっっっと、変わんないよね」
「あのーイバちゃん…なんでそんな力こもってんの?」
「別に。そのうち刺されても知らないからね」
「うお、新年早々不吉なこと言うなよイバちゃん!!てか新年だぞ、今年もオレに対してこんな冷たくいくわけ?」
「なにいってんの、やさしくしてるじゃない。ブレザー縫ってあげたりしたでしょ」
「う。そうだけどさー……なんか違うんだよ、もっとこうなんか…」
「ぶつぶつ言わないの」
「………あい」


【理想】

「イバちゃんなに、妬いてんの?」
「な、ちがっ…!!」
「だーいじょうぶだって、イバちゃん。イバちゃんも十分可愛いからさ。な?着物すげー似合ってる」
「……………!(もうやだこいつさらっとそんな…恥ずかしい死にたい…!)」
「!?イバちゃん!ストップ、ストップパンチ!!キューが死にそうだから!!!」






やはり力関係はキュー<イバだと思われる。