空気を読まないとよく言われる俺にだって、ピンとくることはあるのだ。 それも、好きな女の子のことなら、なおさら。
少なくとも夏目よりは敏感だ!







「らあめん食堂に行っく人この指とーまれー」
「なんだそのメロディ」
「うーん…自作、か…?」
「おい、止まるの止まらないのどっちなんだよ」
「そこ聞いちゃうんだ」
「仕方ない、止まってやるよ。ほれ」
「北本!」
「はは、じゃあおれも」
「夏目…!」
「じゃあわたしも」
「ひいっ!?…あ…た、多軌さん!?」
「タキ!?びっくりした」
「ふふ、話してるのが聞こえたからそっと来たの。成功して嬉しいわ」
「いやいや多軌、怖いからやめてくれ。 リアルに怪談だと思ったぞ、ほらひとつ手が増えてたってやつ」
「北本でもビビるんだなあ」
「夏目…おまえは俺をなんだと思ってるんだ」
「…仙人かな」
「あははっ、ごめんなさい。で、西村くん、わたしも行っていいかな? そこのラーメン美味しくて好きなの!」
「!す、好き…、多軌さーん!!」
「あっ、おい西村、(なんだ今のセリフ!?)」
「…っと…。西村、ひっつくなって。タキ、大丈夫か?」
「あ、うん…大丈夫よ」
「む、何すんだよ夏目ー!!」
「いや…タキは女の子なんだからちょっと考えた方がいいと思うよ」
「ははは、夏目が止めるなんて珍しいなー」
「ああ…うん、なんか身体が勝手に動いてた」
「……(び、びっくりした…)」
「西村も紳士的なところを見習え」
「むー。案外、ただの男の嫉妬じゃないのー?」
「えっ…(西村くん!?)」
「え…」
「……(え…)」
「……(なにこの雰囲気)」
「いや、そんなんじゃないと思うけど…あ、別にタキがどうとかじゃなくて」
「ふふ、わかってるわ。私たち、友達だもんね」
「ああ…うん、友達…」
「夏目…まだ友達という響きに慣れないのか?」
「夏目くん、照れてる」
「え、あ、いや…」
「ふふふ、今度は困ってるわ」
「タキ、あんまりからかわないでくれ…」





――そんな他愛もない会話から、ちょっぴり俺はわかってしまった。
一瞬流れた微妙な空気。 夏目も多軌さんも一瞬戸惑っていたのは、もしかしてもしかして。 ふたりは友達以上になりつつある…とか?
それに、ふたりは友達って言ったけれど。 夏目は相変わらず朴念仁なのに対して、多軌さんは、 すこしだけ変化してきているんじゃないかって思った。
だって、友達であることを再確認した今、彼女はなんだか寂しそうな笑顔をしている。 俺は多軌さんが気に入ってるから、こんな些細な変化もわかるんだ。
…ふむ。ならば俺は、ちょっとした行動に出ることにする。





「なー夏目って多軌さん好きだろ」
「え…」
「に、西村くん…!何言って…」
「また西村が変なこと言い出した…」
「別に変なことじゃないだろー。な、夏目?」
「ああ、うん。タキならもちろん好きだよ」
「な…っ!?」
「ええ…?(んなあっさり、)」
「どうかしたか?」
「っておまえ…だって好き、ってそれは」
「?タキを嫌いなわけないじゃないか、当たり前だろ?」
「…………そうだな…(あーうん、半分予想してたけどやっぱりか)」
「………」
「あははっ、やっぱ夏目っていーな!」
「?ありがとう」
「もう西村、ほんとなんなのおまえ…」
「えー聞いてみただけじゃんか」



「…もう、夏目くんったら…」



小さな呟きが聞こえた。たぶん、隣に立つ俺にしか聞こえないくらい。
さりげなく多軌さんを見たら、 彼女は顔を赤らめて、困ったように眉が下がっていて―― でも、すごく嬉しそうに微笑んでいた。呆れた風に言っても、喜びを隠せないのはバレバレだ。
それを見て、俺もニカッと笑う。
うん、空気を読まないとか馬鹿とか言われる俺にだってこんな風にできるんだ。 好きな子を喜ばせるためならなんでもするさ!たとえ、彼女の相手が夏目だったとしても。


「よっし!さーて、みんなで食いに行くぜ!!」













A(あえて)K(空気)Y(読まない)



(それもまた西村!)









09.11.24.aoi


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変なところで敏感だといい。 もしくはマジで空気読まず「好きなんじゃないのー?」とか言うタイプでも大変おいしいと思います。 キャラ的に。
しかし鈍感にピュアに人間的な「好き」で通してしまうあたり夏目と西村は大物になりそうですな。

西村は根がピュアで好きな子の望みならなんでも叶えてあげそうなイメージです。 将来悪い女に騙されつつ、ピュアピュアで逆に更生させちゃうよ☆フラグが たっているんじゃないかと。笑