「ねえ、泉水子ちゃんに『一生いじめ抜いてやる』って言ったことがあるんですって?」
「あ?ああ、そういや…そんな風に言ったこともあったな」
真響は、くすりと笑った。

「一生って、ねえ? …一生泉水子ちゃんのそばにいるってことかしら」

その言葉に勢いよく振り返った深行は、ひどく狼狽していた。
耳から頬にかけて微かに赤い。

「別に、そんな深い意味はない…っ!」
「えー?そう?」

(いじめっこならではの不器用なプロポーズでしょ?)
(違う!!)





※以下、文化祭から連想したよくわからない妄想。
→姫様な泉水子ちゃん、女騎士の真響、忍者の真夏、深行は考えてない(!)
→ぶっちゃけ冒頭のセリフを泉水子ちゃんに言わせたかっただけ



「わ…、私を守りなさい!」

――歓声が湧きあがる。事情を知らない普通の学生であろう者すら忠義心が生まれたようだった。
当の泉水子は思いつめた表情のまま、やぐらの周りの人々を見下ろす。 泣きそうな顔がまた、庇護欲を誘っているとは、パニックになっている泉水子には知りようがなかった。
士気が高まる連中の中で、真響と真夏は唖然とした顔を見合わせた。…やがて、くすりと笑いがこぼれる。 出番が来ましたとばかりに、颯爽とそれぞれの武器を構えた。

「やっぱり、泉水子ちゃんは特別よねえ」
「鈴原さんなら守るよ、誰だって」

フ、と油断ならない微笑が漏れる。
とたんに立ちこめる暗黒のオーラが、彼らの表情を更に不穏なものに見せていた。

「――さあ、とっととやっつけちゃいましょうか」





「鈴原を守るのは俺だけのつもりだったんだけど」

すべてが終わった後、深行はぶすっとした顔で最高に不機嫌だ。

「ご、ごめんなさい…心配かけたよね」
「おまえ…大して意味も考えずに謝っているだろ」
「え?」

深行は押し黙った。
流すなんてあり得ない、という呟きが聞こえたけれど、泉水子にはさっぱりわからなかった。
不思議そうな顔をする泉水子に、深行はしかたなく息をつく。

「――今度は迷わず俺を呼べよ。おまえを守るのは俺だ」


これはどこかのおはなしということで






頭良い、けど女心なんてなにもわかってない。
冷静、だけど頭でっかちの分からず屋。
人当たりいい、けどそれは私以外。
たまに優しい、けどいつも意地悪。


「…おい」
「なに?」
「なに?じゃないだろ。思ったこと話せって言われて口にするのがそれか」
「だって、いつもこう思ってるもの」
「……」

苦虫を噛んだような顔で深行くんは黙った。もうなんて言っていいかわからないらしい。 意外にもショックを受けている様子で、私は首を傾げた――本当に意外だ。『私』の言葉なんて、特に気にしないと思っていたから。

「…言っておくけど、こんなのもっとあるよ?」

俺様、偉そう、無駄に自信満々、秘密主義、あまのじゃく、自分のことを棚に上げる…。
数えきれないくらい不満を覚えているのだ、いくらでも出てくる。 つらつらと繰り出していると、深行くんはひくついていた顔から、ムスッとした顔に変わって明後日の方向を見始めた。


「…でも、すき」
「えっ?」





けれども、けれども、あいらぶゆー

(なんて言ってやらないのだ、調子に乗るから)


t. is,






泉水子の唇は柔らかくて、麻薬みたいだと深行はいつも思う。
何回食んでも飽き足らなくて、かすかに漏れる艶めいた声に興奮は止まらなくて。それで、今日も長いこと唇を襲っている。
泉水子の腕は、しがみつくように深行の背中にすがりついた。 それはお互い気持ち良くなるサインだと、今では十分に知っている。 その証拠に、泉水子は拙くも応えはじめて、深行は背中に感じる必死さに腰が疼く。 大概、更にきつく腕の中に抱き込んで、くちづけが激しくなっていくのが当たり前になった。それが、すこしだけ不思議で。

「んっ、…み、ゆき、くん…」
「…なんだ?」

苦しそうだったので口を離すと、糸がふたりを繋ぐ。はあ、と唾液で潤った唇から息が漏れるのが、なんとも…そそる。 彼女のとろんとしたまろやかな瞳をのぞきこむと、泉水子の口が小さく動いた。 涙をぽろりと流して、真っ赤な顔をして、それでも彼女は言った。


――もういっかい、…して、?


「――!!」

理性を葬り去るには十分すぎた。その証拠にこの手はとっくに彼女の後頭部をつかんでる。 あとはもうどれほど泣いたって、離してやらない。その唇のみならず、どこまでも深く奪ってやる。
泉水子に甘く噛みついた深行の耳は、燃え盛るように赤かった。



(くっそ…エロイんだよおまえは…!)


キ ス に 従 属

(離れられない)







彼は同じ立場にいると思っていた。
現実の目に見えない壁に立ち向かうことも、揺れながら戸惑いながらそれでも前を見つめることも。
同じようにして生きていると思っていた。頼るのでも寄りかかるのでもなく、ただ純粋に、十六歳の仲間として。


『すきなやつができた』


守ってほしいと思っていたわけじゃなかった。 だけどそれまでの彼がまるで騎士のようだったから、いままでの日々が急に幻のように思えた。
やさしかったわけじゃない。だけど、気づけばすこし遠くても、見守っていてくれた。
たったそれだけで、安心していた日々。


――ああ、そうか。もう、自分じゃない他の誰かを深行は守っていくのだ。ついにそんな日がきてしまった。


窓にコトンと頭をつけて、目を閉じても彼のその言葉だけがリフレインして、

――もうどうしようもない。
その言葉ごと、いっそ顔すら思い出さないようになりたくてなれそうにもないなんて、 知らない間に、どれほど深行におぼれていたのだろう。







(もう二度ともどらない)


t. gleam






「泉水子ちゃん、これやってくれる?」
イライラ
「あ、泉水子ちゃーん!ここわかんないから教えて」
イライラ、


「おい、いず…、っ」
「え?」
「………………なんでもない」
「?」




宗田双子大爆笑

(もうだめお腹痛い)(つられてやんの…っ)(…おまえら死ぬか?)


双子でみゆっきーをからかってみました。なんでイライラしたのかみゆきはわかってません^^^^






「泉水子ちゃーん」「真夏くん」「今日生徒会いくの?」「うん、いくよ。真夏くんは?」 「んーおれはいかないよ。どうせ真響にこきつかわれるだけだしさ」「そんなことないよ。私だって似たようなものだもの」 「泉水子ちゃんが?」「うん、わたしも」「そんなことぜったいにないって」「ほんとうだって」「ははは」「ふふ」


なんだこれは。
終業後、ふたりを(特に真夏を)逃すまいと迎えに来てた真響と深行は、あっけにとられていた。 今も変わらずきゃっきゃと話しているふたりに、なにか入れないものを感じる。
そんなふたりの様子に、近くにいたクラスメイトは笑った。

「あのふたり仲良いよねー」「鈴原って真夏が好きなんでしょ」「そうそう、あたしたち応援するよーって言ったんだよね」

真響と深行は、部活へと去る彼女らを見つめたあと、呆然とした面持ちで顔を合わせた。

「知ってた?」「知るわけないだろ」

どこか刺がある口調だった。真響はしばらく深行と泉水子を交互に見比べ、ふうん、と思う。
…にしても。真響は頬に手をやりながら、ため息をついた。
ふたりは顔を寄せるようにして笑い合っている。まるでお花畑だ。周りに花が飛んでいる。
泉水子にとって真夏がどれほど気が許せる異性なのかを物語っていた。
だけどもっと始末が悪いのは、そんなふたりの雰囲気が、C組では普通に受け入れられていることだった。


「顔が近いわよねえ…」
「……」

「…どうする?あのふたりが付き合ったら」
「――さあ。好きにすればいいんじゃないか」


くるりと背を向けて深行は歩き出す。そんな彼に、真響は見送りながら小さく笑った。
まったくもって、彼は嘘つきだ。


(十分、怒った顔してるじゃない)




ダメ出ししたのに結局真夏が「泉水子ちゃん」って呼んでるのも気に入らない、みたいな。






「もういいよ、他のとこにいくから」
「は…!?」
「みんなはやさしくしてくれるもん」
「、俺だってやさしくしてる!!」
「……え?」
「………っ」


私は考えた。たったいま、相楽くんが言ってくれたことを。
考えて、涙がでそうになった。
――やさしくしたいと、思ってくれているの?


「…相楽くんの馬鹿。わかりにくいよ」
「…言ってることとやってることが違うな。おい、服に鼻水をつけるなよ」
「相楽くんだって人のこと言えないじゃない。すぐに私の背中に手をまわしたもの」
「べつに、いいだろ」


思わず抱きついてしまったのは私だけれど、予想外に相楽くんは同じものをかえしてきてくれた。 『すき』もなにも言っていないのに。こんなこと、はじめてなのに。それでも、不思議と通じ合っている気がした。 時には言葉よりも身体で触れて伝わるものもあるのだと、はじめて知った。
相楽くんが私にそっと囁く。噛み締めるように言われたその一言に、私の喜びはまた涙に変わった。



これでわかったか、鈴原。…おまえだけなんだよ、やさしくしたいと思う女の子なんて。



――わかったよ、相楽くん。
だって相楽くんの声もその腕も、なにもかも甘くてやさしい。



きみをあいするアカシ

(やっと、きづいた)


ふたりは付き合う前でもこんな痴話喧嘩をしそうなイメージです。
大体泉水子ちゃんがぶーたれて深行が墓穴を掘っていつのまにか仲直り。





*海を見たかったがゆえの犯行 の続き(暴走バージョン)


「おい、なんで本当に馬に乗ろうとしてるんだよ!せめて電車で行けよ!!」
「えーだってこの方が早いじゃん」
「どう考えても電車の方が早いわ」
「シンコウ、ツッコミもできるんだね」
「おまえらのせいだろうが」
「泉水子ちゃんは私の後ろに乗る?真夏の後ろでもいいけれど」
「え、えっと…」
「宗田ーーー!おまえはさりげなく計画を進めるな!!乗らないって言ってるだろ」
「別に相楽は乗らなくていいわよ。三人で行ければ十分楽しいし」
「おまえひどいな!」
「ほら、見て、泉水子ちゃんこの子がスターライトだよ!一番速くてかっこいいから、泉水子ちゃんもきっと気に入るよ」
「あ、うん…そう、ね、素敵な馬だね…」
「ほら早くしないと夜になっちゃう。乗った乗った」
「あーもう本気で行く気満々だよこの姉弟」




「あのひとたち、何をやってるんだろうなあ…」
「頭も容姿もいいひとたちの考えることはわかんないね」
「てか馬で移動するようなこと言ってるし…先生呼んでくる?」
「あ、せんせーい。宗田さんたちがなんか変なこと叫んでますー」




暴走って意外と難しいですね…
このあと先生がきましたが、そこは秀才コンビの猫かぶりにより事なきをえました。
リクエストしてくださった銀月さん、ありがとうございました^^!




*海を見たかったがゆえの犯行 の続き(正統派バージョン)


「…行っちゃったね」
「本当に行くか?あの双子…」
「ふふっ」
「…まあ好都合だけどな」
「え?」
「こうして鈴原とふたりきりになれたし?そういう意味なら双子に感謝だな」
「さ…っ、相楽くん!…もう、そういう笑顔…なんかずるいよ…」

真っ赤になって目をそらす泉水子に、深行は満足したように口だけで笑う。
カタン、と机にホッチキスが置かれた。椅子から身体を浮かせて、距離を詰めて。

「ちょっとちょうだい」
「え、っ…」

それは、まるでぷるんとふくらんだ果実を吸うように。深行の唇は泉水子のそれを食んで味わうように動いた。 最後に舐めて、ちゅ、とリップ音を鳴らして唇が離れた――― けれど、握りあった手は強く繋ぎ直されて、再び、ゆっくりと。

「…やっぱり、もうちょっとだけ」
「…ん……」






「――どこのタイミングで入ろっか」
「そうね…。もうすこしだけ、ふたりにさせてあげましょ」
「真響はこういうの許さないと思ってたから意外だな」
「だって泉水子ちゃんが寂しそうなんだもの。ここのところずっと生徒会で忙しいから」
「でもさー。ちゅーしてるのを聞きながら気を利かせてるってなんかちょっと泣けてくる」
「大丈夫よ。あとで相楽を思いきりいじめ抜くって決めてるから」
「…りょーかいです」


実は真響さんにはこんな思惑があった、という(※今考えました)
思いきり外出してますよー的な感じなら、ふたりとも存分にいちゃつけるだろう、と(※今考えました)







男と女の友情は成立するか否か


「別に相楽と私の間は成立するでしょうけど、泉水子ちゃんとの間では成立すると思いたくない、と」
「それは随分斬新な考えだな」
「馬鹿。あんたの気持ちを代弁したのよ」
「…え、…は……っ!?」


なんかもう勝てない。かわいそう。←






望みのない恋愛はしない主義


「つっまんない主義。相楽、頭おかしいんじゃない?」
「……………」


瞬殺part2。かわいそう(二回目)






抱きしめてもキスを重ねても愛を囁いても


(満たされないのは、)


「……っ、」

心に棲まう、たったひとりの女を忘れられないから。


『深行くん』


呼んでくれたあの声が、あの笑顔が死ぬほど懐かしくて触れたくて―――
深行は見知らぬ他人を壊しそうなほど強く抱きながら、寂しさに心が狂いそうだった。







(あいたい)



「銀色の夜明け」の別verのようなもの。






「ああああもうだめ、手が足りない。しょうがない相楽、馬術場から泉水子ちゃんとあの馬鹿を連れてきてよ」
「なんで俺なんだよ。人使いが荒いな」
「あんたが使えるやつだから言ってるのよ」
「…その言い方はずるくないか?」

じろりと睨む深行を、まったく気にしない真響は手でシッシッとやった。
『姉』という生き物は大概強い。そのことを深行は身を持って実感する。

「ほらほらさっさと行ってきてよ。時間がないのよ」
「わかったよ。…馬術場?なんで鈴原もそんなところにいるんだか」
「何言ってるのよ。当たり前でしょう、部活の時間なんだから」
「は?」

真響は、その反応にぴたりと手も口も止めた。しばし黙って、ひとつの結論を出す。

「…相楽、まさか知らないとかいわないわよね」
「何をだ」

うわあああ。決定だ。
嘘でしょう泉水子ちゃん、なんでこんな面倒くさい奴に言ってないの?
真響は心の中で絶叫する。


「泉水子ちゃん…馬術部に入ったのよ」


深行の瞳がこれ以上ないほど大きく開かれる。
それは彼にとって、まさに寝耳に水な発言だった。




そして始まる、相楽深行の嫉妬物語――― (かっこよく言ってみた)






どうしてこんなことになったのだろう、と泉水子は困り果てたまま考えた。
今はもう布団の準備をしに行ってしまった宗田きょうだいが驚くのも無理はない。
まさか、洋酒には弱いっていうオチ?と思いつつ、そっとため息をつく。
その息が届いたのか、問題の人物の前髪が少し揺れて、その拍子に額が現れた。 はっきりと見えた深行の流麗な線を描いた眉と、閉じていても凛々しいとわかる瞳に、泉水子は思わずまじまじと眺める。
と同時に、自分の腰に巻きついているたくましい腕と、膝の上で健やかに眠る幼い顔に、 泉水子の眉は困ったようにますます下がっていく。逆に頬の熱は上昇していくばかりだ。
彼女の心臓に悪いことだとは露知らずに、深行は泉水子の膝を独占していた―――いわゆる、『膝枕』というやつで。

「ん…」
「…相楽くん、起きたの?風邪引いちゃうから…お布団までいきましょう?」
「…やだ…」

泉水子は呆然とした。舌足らずな口調で『やだ』ときた。子どもか。
一方で心配にもなってしまう。果たしてこれは本当に深行なんだろうか。
深行は目を閉じたまま頭を動かし、顔を泉水子のお腹につけるようにすり寄って、さらに密着してきた。 彼の両腕は泉水子のお尻を抱き込むような形になってきて、思わずびくりと身体を揺らす。

「気持ちいい、から…このまま寝かせて…」

泉水子は―――今度こそ完全に絶句した。
すうと幸せな世界にいってしまった深行の寝顔を見つめたまま。 真響が呼びに来るまで、真っ赤になるほど沸騰しきった身体の熱を、どうすることもできずに固まっていた。





王 子 様 ご 乱 心

(…どうしよう、深行くんが、かわいい…)


強いはずなのに酔って膝枕かます深行はむっつりすけべ親父だと信じてる。(確信犯でも萌えますが)
翌日事実を聞かされた深行は真っ赤になったそうな。







ねえ、深行くん。
わたしが深行くんと呼ぶとき、あなたはいつも少しだけ変な顔をするね。
それは照れているのかなって自惚れてもいい?





愛 の 証 明

(ただ、その名を呼ぶだけで)






別に生きるのをやめようと思うわけではなかった。
家族や友人に恵まれ、なにも不都合なく楽しい日々を過ごしているのだから。

ただ、ほんのすこしだけ、ふっと影が差すように考えることがある。
楽しみも悲しみも辛さも幸せもどんな感情ももう共有できない遥か向こうへ旅立った、永遠の片割れ。


もしも――もしも生を終えたとしたら、その時は――






カタン、と小さな音がして、ハッと我に返った。
どくん、どくん、と鳴る心臓は激しく訴えていた。

”生きている。おまえは生きているんだよ”と。

止まっていた時がゆっくりと動き始め、息をもらせば、おぼろげだった外の景色が良く見えた。
世界は美しい。雲の切れ間から射す希望の光に、思考は溶けて跡形もなく消えてゆく。
繰り返し繰り返し、何度でも夢から醒める。


誰も知らない、穏やかな日々にひそむ、永遠のループだった。





人をやめたらあなたにあえる


(そう思ってしまうのは、愚かなことですか)



ほんの1ミリだけ、ひそむ思い。真澄を愛する者の。

* Ultramarin/∞=




それは突然の一言だった。


「海が見たい」



「…真響さん?どうしたの?」
「生徒会業務をほっぽって行くなよ。大体ここから海なんて遠すぎる」
「だってもう毎日毎日準備をやってもやっても時間が足りないんだもの。現実逃避したいのよ!」
「すればいーじゃん。嫌がる俺を生徒会に引っ張り込んどいて本当にやったら軽蔑もんだけどね」


同調する様子が微塵も得られない男性陣の冷たい視線に、真響は小さく頬を膨らました。
泉水子は間に挟まれた形になっておろおろしていたが、やがて気が付く。
…遠くを見つめる真響の目がうつろであることに。

「真響さん――」
「ねえ知ってる、真夏。馬って公道を走ってもいいのよね」
「マジで」
「真夏のるな!」
「ま、真響さん落ち着いて?目がちょっと…その…」

ヤバイ、とは言いにくい泉水子の制止も虚しく、真響の迫力のある笑顔は止まらない。
深行にはわかる気がしていた。そのくらい確かに多忙すぎる日々を過ごしていたからだ。
だが、こんな言い合いをしているくらいなら手を動かしてほしいとも思う。

「ちょうどいいわよね、馬術場が私に味方するようにすぐ裏手にあるし」
「うん。オスのスターライト1号が特にオススメ」
「おい、なに真剣に賛同し始めてるんだお前は」
「あらなかなか速そうな名前じゃない。いいわね…真夏が本気出せば電車にだって負けないもの、今すぐ海にたどり着けるはずよね」
「もっちろん。車がよけてくれればあっという間だよ」
「…完全に宗田側に寝返ったなこいつ…」
「というか、車がよけてくれればって…確実に死ぬコースだよね…」
「よし、ちょっと行ってくるわ!」
「シンコウ、あとはよろしく!!!」
「いいから待てそこの馬鹿双子」



海を見たかったがゆえの犯行


このあとみゆみこな雰囲気になるか宗田きょうだいの犯行を阻止するかはあなたの心の中に…


* joy




「ちょっと、深行くん…!あっ、」
「なんだ?鈴原、ここ弱いのか」
「や…、いじわる…」
「…勝手に感じてるのはそっちだろ」
「…っ、勝手に舐めてるのはそっち、じゃない…んっ」


泉水子の指という指をすべて深行の舌がゆっくりと行き来する。
恥ずかしさのあまり目をきゅっと瞑って耐えていた泉水子だが、なんとなく気になって、そっと目を開けてみる。



――泉水子は一瞬で後悔することになった。



泉水子の手を掴んで舐めたまま上目遣いで泉水子の瞳を貫くそれは、まるで泉水子を喰らいつくそうとする獣――瞳に痛いほど鋭く宿る男の本能だった。
思わぬ眼差しに、本気で泉水子の心臓が止まりそうになる。息が、できない。目が逸らせない。
その間もくすぐったく、時にねっとりと這う熱い舌に、指の付け根からじんわりと伝わる快感に、泉水子の息はどんどん熱くなる。
もうやめて、と掠れて声にならない音を漏らすと、深行は小さく笑って手を解放した。
そして彼はまるで勝者のように微笑んで囁いたのだった。





「…サンキュ、美味かった」



耳元に直接届いたその言葉に、泉水子は今度こそ真っ赤になった。





きみの指に溶けるシャーベット


(とても甘かったよ)



なんというかほんとにすみません(もう謝っちゃう…)

* joy




(俺にできることなんかなにもない)


そう思っていたけれど。
真っ暗な感情は、きゅ、と小さく遠慮がちに深行の指を握るそれに消され――深行の心臓は今までにない音を立てた。
自嘲しただけの話。なのに、こいつはなぜ必死に真剣にこっちを見るのだろう。

「相楽くんにできないことなんてないでしょう」
「…あ?」
「いつも私を助けてくれるのは相楽くんだよ。相楽くんがいるから、どんなことあっても頑張れるよ」
「―――」

だから。そんな風に言わないで。
涙がにじんでいるような声で、そう言われた気がした。
心に痛いほど突き刺さるそれを真っ直ぐな目で伝えといて、泉水子は言い切ったあと俯いてしまう。
その様子が今にも泣きそうに見えて、何故だか胸が騒いだ。
握られていた指から泉水子の手を引き寄せ、男とは違う柔らかなぬくもりを腕の中におさめる。
――泉水子が泣きそうだからだけじゃない。自分もなのだと、熱くなった目頭を押さえるように泉水子の髪に顔をうずめた。







闇を泳いで君の部屋まで


(ああ)(想いがあふれだしそう)



こんな風にお互いを支えてたらいいと思います


* tiptoe




「ま…待って深行くん、」
「ダメ。もう待たない」
「そんな、」
「嫌か?」
「…その聞き方ずるい」

今さらだろ、と小さく肩をすくめる深行は、返事を待たずに唇で愛撫を再開する。
身体のあちこちに、ずくずくと甘く浸透してくる深行の唇と掌に、泉水子の心はじくじくと痛みはじめる。
もう、どう呼吸していいかわからず、はふはふと小さく息を泳がす。ついにはその砦まで犯してくるから、大変だった。何度も唇を吸われてはまれて、そうして深行と溶け合ってひとつになっていく気がして。


ぞくぞく、する。


(あいされるって)
(どうして気持ちイイんだろう…)



初めての感覚に、深行が与える歓喜のともしびに――泉水子は身も心も溺れた。
時折、安心させるように強く手を絡めてくれる優しさにさえも。




君と体とキスの雨


なんというかもうほんとに(ry)

* tiptoe




「後悔しない?彼といてどんな未来になっても。それでも一緒にいたい?」


――なんでそんなことを言われるのか、ちっとも解らなかった。
泉水子はふいに漂い始める不安に背筋を凍らせる。
人でない和宮には遥かに敏感に悟るものがあり、人には見えない未来が見えているのかもしれない。
ぎくりと泉水子の心臓が鳴る。
…もしかして、どちらかがいなくなる?
――ゾッとする未来だ。もしそうであれば。でも、それでも。


「…一緒にいたい」


どんなことがあっても深行がそばにいれば、怖くない。その理由を知る術は持たないけれど、いいのだ。
他人を納得させられなくても、自らが信じてやまない答えが深行の手の中にある。 握りしめれば、いつでも温かい、消えることのない100%の可能性がそこにある。
それだけで、強くなれるのだ。


――だから。




どんな未来でも幸せになれると


(あなたと賭けてみせる)



完全捏造です。