それは誓いだった。
突然ではあったけれど、その内くる予感があったような雰囲気を泉水子は感じ取っていた。
繋がれた手のひらがとても熱くて、落ち着かないくらいドキドキした。



「100%とは言えない。でも、俺のすべてを賭けて鈴原を守る。それだけは信じてくれ」


「鈴原は、俺の一生のパートナーだから」




強い力で手を握られた。真剣にまっすぐ見つめてくる深行の瞳に熱がこもっていた。

(まるで溶かされてしまいそう…)

そんなことを考えて、深行の瞳に自分が映し出されているのを知って。
嬉しいような驚くような悲鳴が出そうで出なくて、ああ…窒息しそうだ、と思う。 激しい心を揺らす歓喜の渦。胸が締め付けられて息ができないなんて初めてだった。
代わりに、こくんと頷く。気持ちが伝わるように、必死に。
深行を心から信頼している。彼がいなくては心細くて堪らないくらいに。
そのことがどうしたら伝わるか、泉水子はもどかしい気持ちでいっぱいになる。
だが、深行は満足そうに笑った。 嫌みのかけらもなく、年相応の笑顔をさらして、嬉しそうに。 その様子に泉水子がほっとしていると、彼は当然のように泉水子の手を引いて歩き出す。
ふたりでいるのを見られるのも嫌な深行のことだから、手を離すものと思っていた泉水子はすっかり慌てた。

「相楽くん、いいの」
「何が」
「その…手を、離さなくて」
「いいんだよ」
「え?」




「鈴原は俺のものだって見せつけてるから」




泉水子が絶句したのはいうまでもない。
「み、深行くんってそーいうこと言うんだね…」
「まあ、好きな子にはな」

さらりと、深行は答えた。
涼しげな表情とともに出された爆弾発言に、泉水子はもう、瞬間湯沸し器のような有り様だった。
ええ…今、なんて??
聞き返すのも、もう恥ずかしかった。
泉水子が羞恥におろおろしているのに対して、深行はなぜか余裕のようで、泉水子はさらに混乱する。
しばし呆然と眺めて、やがてその様子にハッとした。
もしかして、と思う。
彼はとっくの昔に、想いを認め腹をくくっているのかもしれない。 命をかけて守る。きっぱりとそう言うだけの覚悟が、泉水子の知らない内に決まっていたのかもしれなかった。 最近感じていたこと。 以前よりもずっと大きく広い気持ちで見守っていてくれるような、包み込んでくれるような感じがしていたのは、 彼がすでに何もかも受け止めていたからなんじゃないだろうか。
――ならば、私も考えよう。今まで目を逸らしていたけれど、自らに問うて心の底まで見つめ直してみよう。

そこまで決めて、泉水子はぼんやりと思考をさ迷わせた。
目線は恋人のように深く指と指を絡ませた、自らの手と彼の手にあった。
自分の気持ちがわからないと思っているけれど…。


(本当にそうかしら)


その時、また深行が手に力を入れ直した。

「……っ…」

ああ、また息ができない。
ここで、にぶい泉水子にも、やっと解ったのだった。
なぜか涙で潤む瞳と、胸に息づく甘い痛み。 彼の体温を感じるたびにドクドクと高鳴る心臓と身体中の熱がすべての証明で、もうすでに身体は正直に愛を叫んでいるのだと知った。

そうして泉水子が出した答えは、深行よりも強い力で握り返したことと、それから。





小さく呟かれた言葉に、深行が最高の笑顔で振り返るまで、あと三秒。









し あ わ せ を み つ け た



( わたしも )( すき )











2010.08.23.aoi