「わたしは、守ってもらってばかりは嫌」





泉水子の口から出た言葉とは思わなくて、深行はしばしぽかんとした。
悪い、今なんて?
そう聞き返そうとして、やめた。深行を見上げる泉水子の瞳に、涙が浮かんでいたからだ。

「…っどうして、深行くんだけが頑張らなくちゃいけないの。深行くんだけが傷つくのは嫌だよ」

わたしだって深行くんの力になりたい。抱え込まないで少しくらい頼ってよ。話してよ。話せって言ったの、深行くんじゃない。

深行の服の裾をきゅっと小さく握って、深行の騎士のあり方に異を唱えるのだった。
確かにそれはそうだった。そして深行が泉水子を守ろうとして、危ない目に遭うのはいつものことで、


(だって、知らない。こいつは、俺がどれだけ大事にしてやりたいかなんて)


…ぽた、と涙を落とす。
泉水子のその姿が、綺麗だと思った。

「一緒に並んで歩いて…、どんなに苦しいことも深行くんだけが背負うんじゃなくて」


同じ未来をみていたいの、


だから、ふたりで頑張るのがいい…
声は揺れているけれど、必死に深行をまっすぐに見つめている。
その強さを含んだ眼差しが、なによりも好きだった。その瞳がまっすぐ深行のを貫き、心を震わせる。胸が熱い。
固く口を閉ざしたまま、瞬きもせずにそれを見ていた――泉水子はきれいになっていく。大人に、なっていく。
どんどん成長してゆく彼女に、もう随分前から負けていた。 泉水子の持つ純真な輝きは日ごとに増していき、今ではまぶしすぎる。
けれど。どうしても傍にいてやりたい望みだけ大きく大きくふくらんでいく日々に、気付かないふりをすることなんて出来なかった。
たとえ自分が無力でも。泉水子にふさわしいと思えなくても。
答える代わりに、そっと泉水子の手を取れば、突然のことに手がびくっと震える。
今にも泣き出しそうな顔をして、彼女が緊張と不安に苛まれているのが解った。

(…馬鹿だな)

離れるなんて選択肢は、とうの昔に消え去っているのに。
泉水子を宥めるように、ゆるゆると優しく手を握り、そのまま口元に持っていく。
ちゅ、とリップ音が響いた。

「みっ、深行くん…!?」

その瞬間、蛸のように全身を真っ赤に染め上げた泉水子の反応に、深行は満足げな顔をする。
にやりと笑って、

「…なあ、いまのって、プロポーズ?」
「!!!??」

口をぱくぱくさせて固まった泉水子に、深行は嬉しそうにニヤニヤしているだけだ。
泉水子は呪縛から解け、わなわなと震え始めた。悔しそうにキッと睨む。

「みゆ、きくん…わたしが言ったこと、聞いてた!?」
「聞いてたよ。だからプロポーズ?って聞いてるだろ」
「〜〜〜もうっ、そうじゃなくて…!」

上目遣いで訴える泉水子から目をそらし、深行は小さく笑った。
本当は知ってる。泉水子が一番なにを伝えたいのか。
未だ掴んだままの彼女の小さな手の甲に、今度は静かにくちづけた。

「…どこまでもお供してやるよ、おひめさま」



もちろん手は繋いだまま、「一緒に」。
一緒に考えて、悩んで、不安を出し合って、励まし合って、笑いあって、幸せも悲しみも辛さも半分に分け合って。
でも――守るのは、おれだ。やっぱりそれだけは変わらない。
男は好きな女を守りたいんだ、それだけは貫かせてくれよ。 そのかわり、もう鈴原を悲しませたり置いていったりしないって誓うから。
それでふたりでひとつとなれるのなら、本望だ。
どこに辿り着くかわからないこの道をずっと、ふたりで歩いていこう。



(こんなメンドクサイやつ、すべて理解し愛しぬけるのは、俺だけだ)



きっと一生、そう思っているから。









愛 を 紡 が せ て



(これからも、ずっとそばで)










2010.07.19.aoi