side:A


「突然だけど、インタビューしていい?」

今は生徒会の作業中だ。
真響の突拍子もない一言に、深行は眉を寄せる。だが、慣れていたのですぐにいつもの表情になった。
彼女はこういう子なのだと、今では随分解っていた。
その沈黙を了解と取ったのか、真響はいたずらっぽい笑みで話を進める。

「相楽は好きなひといたことある?」
「いや、ない」
「じゃあ、相楽の好みのタイプってどんな子?」
「……は?」

深行は思わず顔を上げた。
なんでそんなの答えなきゃいけないんだと、子どもなら泣いて逃げ出すであろう、キツく冷徹な視線を真響に向ける。
だが、真響にはちっともこたえないようで、軽くあしらわれた。

「いいから答えて。でなきゃ真澄を呼んであの夏と同じことするわよ」
「脅迫するなよ」

真響の笑顔にちらりと本気が覗いているのに気づいて、深行は溜め息をついた。
自分の意のままに人を動かすのが当然と思っているふしが少しでもあるのだから、まったく横暴な女である。
しばし考え、投げやりに答えた。

「……強い女。うじうじした情けない奴は嫌いだ」
「へえ」


『深行くん、それでも優秀なの』


「!?」

なぜか深行の脳裏には、毅然とした眼差しで言葉を投げかける泉水子が浮かんでいた。
もともと柔和な顔立ちだけに全然怖くはなかったけれど、それでも深行を鋭く射るような瞳。
凛とした雰囲気がフラッシュバックする。


「――――」

なんで、今そんなことを思い出すんだ。
なんとなく頭が熱いような気がして、首を軽く振った。

「強いって物理的に?それともハキハキしたひとってこと?」

真響がなにか言っているがまるで耳に入ってこない。
とりあえず、自分に対して訝しげに眉を寄せたまま、作業に戻ることにしたのだった。





side:B


「どうして私…なにもできないのかな」

泉水子の沈んだ声が聞こえて、真響は足を止めた。
相手が息を止めたような気配すら感じて、その真剣な空気に入ることは憚られた。

「…なにもってことはないだろ」

よく知った声が耳に入り、ああそっか、と壁に隠れて納得する。
こっそり覗くと、ふたりは並んで座っており、背中をこっちに向けていた。

「だって優柔不断だし、真響さんみたいに堂々と動く自信なんてないもの」
「宗田のことは気にするな。鈴原は鈴原だろ」

だが、その苛々した声から一転、落ち着いたトーンに変わる。
深行の、息を吐く音がかすかに聞こえた。

「…鈴原は強くなったよ。昔に比べれば、ずっと」

(……へえ…)

その響きは優しささえ感じるようで、真響には意外に思えた。
いつも泉水子に素っ気なく、冷たい態度を示すところしか見ていなかったからだ。
それでもいまの声と言葉には、どうせ仏頂面なのだろうが、それでも泉水子を見る瞳はきっと柔らかいんじゃないだろうか、と思わせる 力があった。
真響と同様に、泉水子も驚いているようだった。

「いつもびくびくしてる奴かと思ってたけど。意外に度胸もあるし、自分の意志をしっかり持ってる」

「…大丈夫だ。強いよ、鈴原は」



「び、びくびくしてるって――」
「おどおど、とも言うな」
「そんなの、相楽くんが意地悪できつい物言いをするからでしょう」
「俺のせいにするなよ。うじうじしてるのは鈴原の性格だろ」
「違うもん。大体男の子が怖くなったのだって、昔から深行くんが高圧的だったからよ」
「やっぱり俺が悪いのかよ」

ボソッと深行が呟き、しばし沈黙が流れる。
でも嫌なものではなく、どことなくふたりとも昔を懐かしむような柔らかい空気が漂っていた。
お互いを嫌いあっていたことなど、遠い昔だとでもいうように。

「…今は普通だろ」
「…うん」






真響は、笑いをこらえるのに必死だった。
例えるならば、点と点が繋がったような感覚で納得したのだった。

(相楽の言う「強さ」って…ギャップなんだ)

気づかれないようにその場をこっそり離れ、我ながら良い弱みを見つけたとほくそ笑む。
泉水子は自分を表す言葉に引っ掛かったまま、あの深行が認めた一点の重要さに気付いていない。


『強い女。うじうじした情けない奴は嫌いだ』


深行は、一見頼りなく、か弱い――まあ見たまんまのところはあるのだけども――ように見えて、実は芯がある子が好みなのだろう。
守ってやりたい。だけど思いもよらず深行を驚かせる女の子。
誰が、と聞かれたら、そんなのは言わなくたってこの学園には一人しかいないと思った。
そう、結局のところたったひとりしかいない。



(相楽が大切にする女の子なんて、ね)













彼と彼女のトップシークレット



(相楽は全然気づいてないみたいだけどね)












2010.07.19.aoi