夏休みの終わりが近づいたころ、鳳城学園の学園祭を無事成功させるため生徒会はあちこちへと遁走し始めていた。
合宿中に事件を起こした、お騒がせな宗田きょうだいも何事もなかったように明るく作業している。
その真響が戸隠から寮へ帰ってきたころ、深行が最初にしたことは泉水子に関する事後報告だった。

「鈴原から高柳について聞いてるか?」
「へ?ううん、なんにも聞いてないけど?高柳がどうかしたの」
「あいつ………」

真響にも話してないのかと苛立つ深行に、真響は首を傾げざるをえなかった。
先を促すと、深行はため息をつくものだから、ますますハテナが頭に浮かぶ。

「鈴原の奴、いつの間にか高柳に勧誘されてたらしい。…それも試験前に」
「え、ええ!?やだ、泉水子ちゃんたら、そんなこと一言も言ってなかったのに」
「…忘れてたんだと」

真響は、ぽかんとした後、やがてクスクスと笑い始めた。
反して深行は眉を寄せたままである。

「何がおかしいんだ」
「いやあ…泉水子ちゃんはかわいいなあと思って」
「どこがだ、ただ危なっかしいだけだろ。鈴原ときたら高柳に狙われたのが、ちっとも解ってない」
「ああ、相楽はそっちの心配をしているのね」
「そっちって何だ」

深行が怪訝な顔をして問うと、真響は腕を組んで、にたにたと笑っている。
どうやら自分の思考にハマっているらしく、深行の問いかけはスルーされるばかりだ。

「んー。相楽ってこういうことでイライラしたりするのね。ちょっと新鮮」
「おまえはさっきから何を言ってるんだ?」
「ねえ、泉水子ちゃんって、前は何かあるたび相楽に頼ったりしてたんじゃない?見鬼がらみで。 ああ、一番最初に高柳と対決した時もそうだったよね、教室で相楽を呼んでた」
「…まあな」

深行は歯切れ悪く同意する。
それはそうだった。泉水子があるものを見てしまうことを知っている者など、近くにいる人間では深行しかいないからだ。
彼女の性格からすれば、必然的に深行を頼ることになる。
真響はうなずいた。

「だろうね。でも泉水子ちゃんも成長してると思う。言いたいことも言えるようになったし」
「……」
「相楽は、自分の知らないところで泉水子ちゃんがどうかなるのが嫌なんでしょう」
「…別に、どう動くかは本人の自由だ。あいつは俺の所有物じゃない」
「ねえ、そこに拘ってるの、高柳への対抗心じゃないの?」

ぐっと、深行は言葉に詰まる。
泉水子のすることに自分は関係ないというスタンスは最初から変わらないが、 『所有物』と言うあたり、パートナーを支配下に置いて良いように扱っていた高柳に反発しているのだ。
――泉水子は泉水子だ。深行の言う通りに動く人形ではない。
そう言うと、真響は悪戯っぽく囁く。

「じゃ、いつの間にか高柳とくっついててもいいんだ」
「……」
「相楽。すごい顔をしてるわよ」

深行にしてみれば、こうからかわれるのは不本意なために、より機嫌が悪くなる。
別に恋愛感情など持ってはいない。だが、泉水子が自分から離れて行くと思うと、妙に苛つくものがあるのだった。

「腕組みをして不機嫌になって。泉水子ちゃんが絡んだ時の癖だよ。知ってた?」
「…知らない」

いい加減居心地が悪くなった深行は、さっさと真響から離れて先を歩きだす。
真響はそれをしばし見つめ、そしてふうと息を吐いた。






(なんだかんだ言ったって、泉水子ちゃんしか見てないのにね…)



「ほんとに強情なんだから」




案外本人にはわからないものなのだと、真響はこっそり笑った。








深 窓 の 愛 欲



(心の底にいつまでも秘められたままで)











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自主的に動くようになった泉水子をハラハラしながら見守る深行 
…ってなんか イイヨネ \(^O^)/ !!!

2010.08.23.aoi