こ っ ち に 来 い よ




「え…?」
「いいから来いって。いつまでもそこにいたんじゃ冷えるだろ」



布団をめくりあげ、肩肘をついて深行は待っていた。
ふああ、とあくびをするだけの彼の様子に、泉水子は戸惑う。
まさか誘われているのは、深行の布団の中なんだろうか。
恐る恐る聞くと、面倒臭そうに肯定された。 理解していくと、じわじわと頭の芯から熱くなっていくようで、驚く速さで身体中が沸騰してしまっていた。
泉水子はぐるぐると考え始める。
自分はただ嫌な夢を見て、ふらふらと真夜中の散歩に出ただけだった。 そこで宿泊所の庭から深行をちょっと確かめられたら(縁側に面した襖を開け放しで寝るからだ)、それで良かったわけで、 安心は一応得たからもう用はないわけで――
すっかりパニックになっていた。
だからだと思う。深行が早く、と不機嫌そうに言うのに慌てて流されるようにその温もりの中に埋まってしまったのは。 そうしたあとで大抵、人はハッと気づくのだ。

「み、深行くん、あの」
「あ?いいから寝ろよ…」

あまりにもだるそうな雰囲気に、泉水子はようやく気がついた。
深行は眠さのあまり何もかもどうでも良くなっているらしい。
つまり意識しているのは自分だけなのだと脱力した。
彼は体勢を変えないまま、目を閉じて泉水子にかぶせた布団の上から軽くリズムを持って叩く。 その様子はまるで父親を思わせ、泉水子は思わず笑いそうになった。

(昔、相楽さんにもこうやってもらったのかな)

そう思うくらい自然な動作だと思った。
ぽん、ぽん、ぽん。うと、うと、うと…。
やがて叩く音の速度が弱まり、深行の頭が船を漕ぐ速度と一緒のタイミングになった。
見ていた泉水子はこらえきれず、とうとう吹き出してしまった。
とたんに、気持ちが緩む。同時に心に暖かいものが流れ込んで、それは瞬く間に、ゆるやかに広がっていった。
満たされるという初めての感覚に、瞳はとろん、と落ちていく。


――さっきとは違って良い夢が見られそう…。
泉水子は小さく笑って、ゆっくりと目を閉じた。
飛び込んだ夢の世界にも、深行がいることを小さく願いながら。












翌朝、目を覚ました深行が驚きのあまり固まったのは言うまでもない。
部屋を見に来た野々村の稀にみる剣呑な顔つきに、必死に首を振って弁解するのだった。

泉水子は、幸せそうな顔ですやすやと寝息を立てている。










t. fisika

--------------------

野々村さんはひそかに泉水子を可愛がっているといい(そんな話か)





「なんかやわらかくて温かい…」と泉水子をうっかり触ってギョッとするという、ザ少女漫画な目覚めでお願いします。
泉水子ちゃんもまた、無意識に深行の胸にすり寄ってくる(※寒いから)
これまた深行の服の裾を握ってるものだから、いけない想像が頭を一瞬駆け巡る深行がいてもいいと思います。
…私は変態ですね!(笑顔)


2010.09.11.aoi