真響はついに見たくないものを見てしまった。これなら今朝の占いで最下位と言われたのも大いに頷ける。
最初はきょとんとしたものの、次の瞬間に理解した途端、世にも恐ろしい考えが頭を高速で回り始めたのだった。
――そんなまさか。純真無垢な泉水子ちゃんに、すでに魔の手が伸びていたなんて信じたくはない――

「泉水子ちゃん…それ、どうしたの?」
「えっ?どれ?」

何も言わずに鏡を差しだし、彼女に宿る問題の場所を映し出した。鏡を真響から受け取り、眺めながらしばらく彼女は首を傾げていた。
真響は小さく息をつく。おそらく、多分、意味が解ってないのだろうと思って不本意ながら進言しようとした、その時。

突然目を見開いたと思ったら――泉水子の顔が一瞬でぼんっと真っ赤になったのだった。

「……」
「………」

しばし気まずい沈黙が流れる。真響は彼女の過剰な反応に思わず顔を引きつらせた。
…ちょっと泉水子ちゃん、あなた…。その咄嗟に手をやるとか、なにその反応。まさか、ちゃんと何されたか わかってるってわけ…!?
その瞬間、胸に燃え上がった激しい憎しみの炎は当然―――相楽深行という男に向けられた。


(純粋な泉水子ちゃんにこんな反応させるなんて…死にさらせ、相楽深行!!!!!)


「ねえ、それ、いつやられたの…?」
「…た、たぶん…さっき…?というか真響さん、こ、怖いよ…?」
「そう?いつも通りじゃない?」
「う…そ、そう…?」
「うん、そうだよ。ねえ、だからその痣もどきも気のせいだよね、きっと!」
「………」

きらきら輝く笑顔とともに吐きだされた現実逃避ともいうべき台詞に、完全に泉水子は固まった。
もうどう反応していいかわからないらしく、キャパオーバーしてる様子が読みとれた。
ごまかしもしない彼女に、真響は深行への報復方法をコンマ一秒で次々と編み出し始める。 黒い陰謀が心の奥底でうずまいていることなど、真っ赤な顔で時が止まったままの泉水子には知る由もない。


(まずは不意打ちで背後から飛び蹴り、よろけたところを回し蹴りみぞおちキック、仕上げにカウンターパンチ…)


「ねえ…泉水子ちゃん」
「う、うん?」
「なんでそんなのかましてきたのかしら?相楽がそんなことするキャラには見えない」
「う……そ、その。今朝…真夏くんと話してたのを見たらしくて…」








――それは、いきなりだったという。
真夏と談笑して授業がもうすぐ始まるからと別れた後、つかつかと深行が近寄ってきた。 そして人気のないところへ引っ張りそのまま、無言で唇を泉水子の首元に強く押しつけてきつく吸い上げ―― 何度も刺激を与えられて息も絶え絶えな泉水子に、超絶不機嫌な深行は、耳に唇を寄せて囁いた。


『…あんまり俺以外の男と仲良くするなよ』









「………」


( こ の 野 郎 )


その時の真響の笑顔は、この上なく恐ろしいほど綺麗だったと、後に泉水子は語る。

戦々恐々とした泉水子の心情など露知らず、真響は思う。
泉水子は今や赤くなったり青くなったりと忙しく、その様はとても可愛かった。
けれど、あいつはそんな彼女を男ならではの欲望で少しずつ侵していっているのだ。
…すこぶる意外だったことは確かだ。 硬派ぶっちゃって女に興味なさそうに見えても、独占欲の塊で案外手は早いわけだ―― 難しい顔つきした優等生のくせに笑っちゃう――この分だと泉水子の貞操を守るのは困難とみた。

真響は、フッと鼻で笑った。
深行は喧嘩を売っていると受け取ろうと思う。
まったく、男の身勝手な劣情とともにまるで我がもののように扱って泉水子を翻弄するなんて、冗談じゃない。 あいにく「愛されてて良かったね」なーんて素直に喜べるほどあっさりとしてはいないし、 泉水子が大事なのはなにも深行だけじゃないのだ。
泉水子を深行の所有物よろしく、いいようにされてたまるか!
この時、真響の心に岩よりも何よりも固い決意が生まれた。


(…闘おう。純真無垢な泉水子ちゃんを魔の手から守ってみせましょう)


(この、宗田真響の名にかけて!)










花 盗 人 へ 告 ぐ 



(というわけで真夏も手伝ってちょうだい)
(面白そうなことしてるね)











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こんなギャグっぽいのが書いてみたかった。ギャグの才能ねえなって思いましたが。
とりあえず深行死亡フラグですが、まあ原作の真響ちゃんはこんな怒るタイプではないような気がします。


2010.12.12.aoi