「――あら泉水子さん、こんな夜にどこか行くんですか?」
「うん。深行くんに課題でわからないところを教えてもらうの」
「まあそうですか」

思わぬ答えに、佐和は目を見張る。
中学の頃はあんなに嫌っていたのに、いつのまにか東京で暮らす内に友達になれていたらしい。 お茶菓子と飲み物を持たせて、泉水子が去って行ったあとも佐和は頬に手をやり、ぼんやりと感慨にふけっていた。
そばで静かに酒を飲んでいた竹臣が顔を上げ、こう言うまでは。

「…意外と良い仲になりそうだな」

その思いもしない発想に、佐和は勢いよく振り返って、まあ、と呟く。
竹臣が男女の仲に触れるようなことを言うのは珍しかったのだ。 下世話な話をしない彼のアンテナに引っ掛かったのだから、これはよっぽどのことだと佐和は呆気にとられる。

「そりゃ、以前に比べると泉水子さんは深行さんを毛嫌いしなくなりましたけどね。何を見てそんなことを言うんです?」
「まあ、ほとんど勘だがな」
「…なんですか、もう」

どうやら深い理由があると思ったのは早とちりだったらしい。
てっきりなにかあったのかと思いましたよ、とぶつぶつ呟きながら食卓の片付けを始める佐和の様子に、竹臣は苦笑した。
白黒はっきりつけたがる佐和にとって、曖昧な見解は受け付けないものでしかない。竹臣は再び、静かにお猪口を口につける。


――ふたりはまだそういった感情はないだろう。それは佐和も驚いたことから、よく解る。 何気に佐和は人を見ているし、特に情緒不安定な孫娘を気にかけてくれているのだから、何か思えば竹臣にそっと溢すだろう。
それでも、ふたりに予感する未来をなんとなく思った。
泉水子に接する深行の柔らかい眼差しが、この上なく印象的だったから。







「――で?もしも二人がくっついたらどうするんですか?」
「ん?佐和がそんなことを言うのは珍しいね」
「話を振ったのは貴方ですよ」
「…ほう」

貴方が何を言うか、と少し目くじらを立てかけた佐和の様子に、竹臣は危機感を覚える。
これ以上機嫌を損ねるのは得策ではない。ひたすら柔らかく笑って逃げるべし。

「まあいいんじゃないかい。深行くんはしっかりしていて賢いし、引っ込み思案な泉水子がなつくなら」
「……はあ」

泉水子さんは犬じゃないですよ。当たり前のツッコミをしようかどうか躊躇った佐和は、結局流すことにした。
しかしそう言った物言いをするあたり、まだまだ真剣に可愛い孫娘を手離す気はないらしい。
佐和はそう思い当たって、くすりと笑った。









うちのグランパが言うことには



(さあ、果たしてその直感は当たるかしら?)











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竹臣さんがこういった喋り方をするかは全くわからず書きました(最低)


2011.01.15.aoi