あれほど、空気のように愛せた人は知らない。
そしてこれからもずっとそうだろう。 きっとそうだと言い切れるほどに、一緒にいた時間は長すぎた。 乱菊が僕に抱いた思いがそうであるように、また自分も同じだった。愛していた、いや今も愛している。
けれどもう触れて愛すことなどかなわない。生きる場所を違えてしまった。自分から乱菊を手離した。
そのことを今彼の人はどう思っているのだろうか。
憎んでいる?恨んでいる?顔などもう見たくない?
想像して哀しみのかけらがちらっと心を掠めるけれど、それだけじゃなく楽しむ感情も確かにそこにあるのだから、 やはり自分は普通じゃないのだ。
そんな自分が嫌いじゃないから今此処にいる。此処にいるただひとつの証。
多分、乱菊も解っているだろう。


なあ、乱菊。怒っている?泣いている?笑っている?



………まだ、僕を愛しているかい?…………







「――ギン」

「行くぞ」






いつのまにか現れたその人は、青い炎を静かにたぎらせて僕の前に立つ。
背中を向けて彼はそっと語りかけるから、僕は目を閉じてまた前を見据える。
彼の後ろに寄り添って、思うことはいつもひとつ。過去はもう振り返らないと。
一人になるたび想う乱菊は、彼の傍に立てば消える幻想、淡い思い出。
ともにいた時間は計り知れないほど長かったというのに。



ごめんな、乱菊。愛している。
――それから、いつか会えたら聞いてみよう。












僕と生きた世界はどうだった



(しあわせだった?)








t. is,


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ずいぶん昔の作品です。
にわかファンが書いた話な上に今原作を読んでいるわけではないので、色々とおかしな点があるかもしれませんが…

とりあえず彼と彼女がまた笑いあえたらいいのになあと儚い願いをこめました。

2010.08.23.aoi