いつの時代も無邪気に笑う少女は可愛い。
それが定石だろうよ、と目の前にいる少女を見て佐助は微笑んだ。
いつきちゃん、と呼び掛ければ、邪気のない澄んだ瞳を持った少女は笑顔で、なんだべ?と応えてくる。

「いつきちゃんは四つ葉、見たことある?」
「そんなのあるだか!?おら見たことねえ」
「そう?じゃあ探しにいこっか。四つ葉はね、見つけたら幸せになれるんだって」
「ほんとだか!なあどこ行ったら見つかるべな?」
「あっちに三つ葉がたくさんあるからそこに行こうか」
「うん!ふふ、絶対見つけるべ!」

楽しみだな!と満面の笑みをはじけさせるいつきに、佐助はふにゃりと破顔する。
もうかわいーなあ!つーか癒されるわこれ。最近旦那も人使い荒いからねーさすがの俺様もボロボロ傷だらけ。 そこに草原にたたずむ一輪の花!どうよこれ、これこそまさにパラダイス!! 小さい頃の旦那もそりゃ可愛かったけど、この子はそれ以上の破壊力だわこりゃ。 ごめんね旦那。たった今いつきちゃんがベストオブかわいこちゃんになりました。
南蛮語をやたらと使いまくる男が言ってた言葉をかじって佐助はひとり頷く。が、はたと気づいて訂正した。
いや、でもやっぱ泣き虫だった小さな頃のかすがには敵わないかも。 なんてったってあの頃からかすがが俺様の大切な女の子で女神で。なにしたって可愛くてたまらない女の子なのだ。
そこできょとんとして自分を見つめているいつきに気がついて、笑った。でも、この子も、ね。
小さな身体をぽふ、と腕の中に納めた。

「わっ、ど、どうしただか!?」
「んー?や、いつきちゃんってほんとに可愛いね。あと何年かしたらお嫁にもらっちゃおっかなー」
「な、何言ってるだ!?」

慌てるいつきに、あっははと声を立ててからから笑っていると、所詮からかわれているだけなのだと悟ったらしい。 佐助の腕の中でむくれているのがわかった。
佐助は小さく口の形だけで笑って、背中をぽんぽんと叩いたり頭を撫でたりする。 するとやがて感化されたのか、いつきもくすくすと笑いはじめた。 身体から力が抜けて佐助の背中に手を回してしがみつく。
二人して笑いながらぎゅっと抱き合っている光景は端から見たら変だろうなあと、佐助は頭の片隅で思う。
でもやめない。すり寄ってくるいつきはまるで猫みたいだ。目を閉じて彼女の温もりだけを感じる。 暖かくて温かくて、この血にまみれて汚れた身体も、彼女の清さで浄化するような気がした。 この温もりをこれから先、一体誰が独り占めするんだろう。
織田の小姓か、それとも伊達の―……。

「――おいおまえら」
「ん?……あれー、竜の旦那」

なんでここにいんの。ここ武田の領地なんですけど。
そう言うと、称賛すべき絶妙なタイミングでやってきた独眼竜の男は、不機嫌そうに腕を組んだ。

「今すぐ離れろ、いつきが妊娠するだろ」
「はあ!?するわけないでしょー?抱き合う=妊娠てどんな方程式よ。てか質問には答えてくれないわけ?」
「ほらいつき、come on」
「ちょ、無視かよ」
「ほえ?」

突然現れた美男子もとい政宗は二人をやんわりと引き離し、いつきを自分の身体の方へ引き込む。
さりげなく肩に手を乗せている政宗に、佐助はどっちがよ、と呟いた。どう考えたって政宗の方が下心ありありだ。

「おまえにはちゃんとloverがいるじゃねぇか」
「そーね、かすがちゃんは俺様の嫁になる予定だけどね? でも生憎まだめちゃくちゃ嫌われてるんだけどねえアッハ、素晴らしい嫌味をありがとね、竜の旦那。 でもさーあ、いつきちゃんもすごい可愛いんだもーん」

だから愛でてたの。……別に、いつきちゃんは伊達の旦那のものじゃないでしょ?
だからそんな牽制する資格ないよね、という意味をたっぷりこめて、キラキラ光る最上級の笑顔をお見舞いする。 それを見た政宗は額にピキッと青筋を浮かべる。 間に挟まれたいつきはどうしていいか判らず二人を交互に眺めるしかできない。

「shit!てめえ…いい度胸してるじゃねえか。はっ、battleといくか?」
「それも楽しそうだけどね、悪いけどいきません。ね、いつきちゃん」
「え?」
「これから一緒に四つ葉探しに行くんだもんねー」
「――そうだべ!忘れちゃなんねえ、早く行くべ!早く!」

現在の状況をあっさり忘れて叫ぶいつきは、すぐさま政宗から離れて佐助に飛びつく。 早く行こうと瞳を輝かせながら佐助の腕を引っ張るいつきに、佐助は勝った、と忍び笑いをした。 その様子に、あっけにとられる政宗が面白くてたまらない。
あーあ、これだから、からかうのはやめられないんだよねえと、くつくつ喉の奥で笑う。
ごめんね、竜の旦那。この子はまだまだ純粋な女の子で俺様の癒しなの。…汚すことは許さないよ?

「じゃいこっか」
「うん!」

しっかり手を握って、三つ葉が一面に広がる一帯に向かって風のように走りさる。
後ろから我に返った政宗の怒鳴り声が追いかけてくるけれど、 今日は徹底的に無視してこのお姫様の望みを叶えようと決めた。
この小さくて陽だまりのような女の子に、そして、つれない金髪の彼女を想い続ける俺様にも「真実の愛」を。










デ イ ジ ー 、 デ イ ジ ー



(知ってるかい その可愛さに誰もが釘付けなんだよ)








09.09.01.aoi


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青年と少女の組み合わせが大好きです。いつきちゃんの相手は真田の旦那でも可愛い。 お兄ちゃんは心の底からいつきちゃんを愛でますよ!な会があってもいいと思う(いやだ)
ほのかに伊達→いつき、佐助→かすがなのは私の趣味です。