「ねえ神楽ちゃん」
「・・なにアルか」
「僕言ったよね、午後から雨が降るから洗濯物とりこんどいてねって」
「言ったかもしれないアル」
「かもじゃなくて言ったの!・・で、なんでこんなことになってるの?」
「・・・・黙秘権を実行するアル」
「実行する時点で犯人って認めちゃってるよね、神楽ちゃん」


新八と向かい合って立っているものの顔をそらし、黙って気まずい顔をする神楽は洗濯物と同様、ずぶ濡れだ。
買い物から帰ってきたら、この有り様。一体このおてんば娘は何をしたのだろうと新八は呆れた。
銀さんはと家の中を見回して、彼はいないことを知る。 出かける時はいたから、あのあと甘いものをつまみにでも行ったのだろうか。
つまり、神楽は家でずっと一人だったわけだ。だが、身体は濡れている。
・・はあ、そういうこと。
新八はひとり納得する。生来、彼は人の言動における洞察力に優れていた。


「神楽ちゃん、寂しかったの?」


だから一人で外で遊んでたんでしょと続ければ。


「――なっ、なわけあるかボケェェェ!!!!!!」


新八の問いかけに、神楽は即座にものすごい勢いで反論する。新八のハゲメガネとか罵声も色々出てきた。
ちょっとハゲじゃないっつってんでしょ。ていうか神楽ちゃんムキになって・・余計そうだと認めているようなものだけど。
新八がそう思いながら目にする神楽は図星と言わんばかりに赤い。
ずっと一緒に過ごしてきたのだ、神楽の言動パターンは知り尽くしている。
一人でいるのがたまらなくて思わず家を飛び出しちゃったんだろうなあ、と神楽の飛び蹴りをなんとか交わしながら、 のんびり思って笑みがこぼれた。


「ごめんね、今度からは買い物一緒に行こうね」
「べ、別に拗ねてたわけじゃないアル!」
「はいはい。もう素直じゃないなあ」


だからそれ自爆だって。誰もそんなこと言ってないじゃない。
こみ上げるおかしさにとうとう抑えきれず新八は笑ってしまった。しあわせなことに微笑は止まらない。
結局、なんだかんだ言ったあとで神楽は顔を俯かせながら数拍置いて「・・約束ネ、新八」と言うのだから、 緩む口元を抑える術はもはや存在しない。
新八はまたちょっと笑って、もう可愛いなあ、と優しく神楽の頭を撫でた。










雨の日のおはなし



(何気ない日常)







* spool

08.11.09.aoi

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おまけ

「にしても神楽ちゃんエキサイトしすぎ。傘の意味、全然ないじゃない」
「雨で陽が隠れてたからついはしゃいじゃったアル…」
「なるほどね・・で、神楽ちゃん。この洗濯物の始末、手伝ってくれるよね・・?」
「・・・・・(顔が怖いアル)」
「そのかわり、おやつ作ってあげるよ。銀さんには内緒ね」
「わかったアル!」
「返事早いなオイ」


「ただいまー。・・・あれ、おまえら何食べてんの」
「おかえりなさい。これはホットケーキです、ちなみに銀さんの分はありませんから」
「はっ!?え、ちょっとなに言っちゃってんの?俺の分はないって聞こえたんだけど空耳かな空耳だよね、うん俺疲れてるんだな」
「疲れるほど働いてないと思いますけど・・・とりあえず空耳じゃないですよ。銀さんの分はありません。 あ、神楽ちゃんおかわりは?」
「ほしいアル!」
「ちょっとォォォ!おかわりあるなら俺も食べたっていいじゃん!ねえ俺雇い主だよ? 雇い主に何もないってどういうことなの新八様ァァァ!!」
「薄汚い大人の下心見え見えですよやめてください。それに雇い主ってほど役割果たしてないでしょ。 これは、神楽ちゃんを一人にした罰です。どうせなけなしの金でパフェでも食べてきたんでしょう?ならいいじゃないですか」
「(え、新八ってエスパーだったの?)――っていや、え?罰?・・・罰ってなに!? ていうか神楽ちゃんだって一人で留守番出来るよねえ!?」
「・・銀ちゃん嫌いアル」
「なっ、え、何で?ほんとに何で!??ちょっとふたりとも無視しないでェェェ!!!」