孤独、なんてしらないひとは軽々しく口にしないでほしい。 幾つもの数えきれない哀しみが積もり重なって『中学時代』となった、わたしの悲しみなんて知りっこないだろう。 わたしはずっと、わたしがいなくてもみんなの世界はまわるような気がしていた。こんな時に流す涙なんて知らないだろう。

「あとそういうひとが上から可哀想なんて言っても駄目です。腹が立ちます」
「んー、そりゃそうだけどさあ。そしたら難しくない?夏目さんはどうしてほしいの?」
「そーですねえ…」

ほじ、ほじ。夏目たちはなぜか棒倒しに興じている。 砂場には似つかわしくない会話とともに、夏目とササヤンはひたすらゲームに没頭していた。 砂を見つめるふたりの表情は、無に等しく真面目である。
本当ならば、雫やハルもいるはずだった。だが、いつも通りハルが暴走して雫とふたり、どこかへ行ってしまったのだ。 仕方なくふたりはしゃがみこんで、行っちゃいましたね、行っちゃったねいつものことだけど、暇ですし棒でも倒しましょうか、 いいね久々にやろっか、とのんびり会話を交わした。
そうして始まったのは、おそらくハルと雫の仲の良さから引き出された『寂しい』という感情についてだった。

「知ったかぶりもダメ、同情もダメ。なら、なにしたらいいわけ?」

ササヤンは、くりくりとした猫のような瞳を夏目にまっすぐ向けた。笑ってはいない。いたって真剣に夏目の話を聞いている。 その様子に、夏目は長い睫毛をしばたたかせた。
――ササヤンですら『孤独』をしらないひとだろうと思う。彼はいつも人に囲まれて楽しそうにしているのだ。 しっているはずがない。
だけど、ササヤンはいつも茶化すことなく夏目の話を聞いてくれるのだ。 その純粋な真っ直ぐさが、夏目にはいつもまぶしかった。 すっかりひねくれて簡単に人の気持ちを信じることは、もう出来ない。
俯いて、ぽつりと言葉を落とす。

「ササヤンくんのようなひとになりたかったです」

――私、きっと永久に孤独です。誰も本当の私を見ないで好きっていうひとばかりなんですから。 ハルくんみたいに、どんなミッティでも好き、なんて言ってくれるひとなんて現れません。ずっと『孤独』です。 私の頭を優しく撫でてくれるひとも、ずっとそばにいてくれるひとも、きっと一生いないんです。
夏目の泣きそうなか細い声がもらした本音に、ササヤンは目をぱちくりとさせた。
やがて。

「うん、でもさ」

ササヤンは、くすりと笑った。






「俺がそばにいるでしょ」








悲しみなんておいていきなよ







t. gleam


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「となりの怪物くん」からササ夏。


2011.11.26.aoi