※「キラメキ」と「百獣キングダム」のコラボ。 若干捏造もあるので、いろいろとご注意を。しかも無駄に長いです。 こんにちは、椎葉桃子です。皆さんご存知、杏ちゃんの妹です。 時は経って、私は中学二年生になりました。 すこし唐突ではあるけれど、今から語られるのは、 私のある一日のお話――階南高校の文化祭に行った時のことです。 私の友達がその私立の中高一貫校への外部入学を狙っていて、頼まれて一緒に見に行くことになったのです。 家を出るときは本当に大変でした。月と星が私についていきたいとせがんだので。 遊びに行くわけじゃありません。 あくまでも志望校に行きたいという友のために付き添うのですから、彼らは容赦なく置いてきました。 もう八歳になるというのに、祭とつけばそこには必ずわたあめとりんご飴があると思いこんでいるようです。 我が弟たちながらおかしい…というか食い意地が張っている。 育ち盛りだから仕方がないのでしょうか。 泣いていましたが、今日は珍しく家にいるという杏ちゃんになだめてもらってその内機嫌が直るでしょう。だって杏ちゃんには誰にも敵わないんだから。 そう、杏ちゃんは本当に素敵で、かっこよくて優しくて自慢のお姉ちゃんなのです。 料理もうまいし、頭も良いし、誰からも慕われているし、最高の幼なじみもいるし…これ以上言うと私とのあまりの差に泣けてしまうので良しとくけれど。 杏ちゃんは大学に入ってからはだんだん大人の女性に近づいてきて、なんだかドキッとしてしまいます。 キューちゃんという彼氏もいるからなんでしょうか。 ふたりはとても仲が良くて、あのふたりでいる時の空気や、そして杏ちゃんが完璧なお姉ちゃんであることからいっても、 ああ、私は一生杏ちゃんに敵わないんだろうと思うのです。 それは、弟たちを見ててもすぐに悟ることでした。 正直、私はあまりお姉ちゃんとして頼ってもらった覚えがありません。双子はなにかと口を開けば、必ず杏ちゃん、です。 杏ちゃんがいなくて私がいる時にも関わらず、杏ちゃんと叫びます。 …だから、たまに、私ってなんなのかなあ、と思います。 言いようのない悔しさと不安が胸にうずまいて、私は、この家でどんなポジションなんだろう、と。 もしかして私は二番煎じ? 杏ちゃんが進んできた道と役割を、追っている―― 私は杏ちゃんを真似しているだけの存在なんだろうか。 そんな小さな不安は、彼らが杏ちゃんを慕って泣いたりするたび、心をよぎって、 私もたまに泣きたくなってしまいます。 寂しい気持ちに気づかないふりをして、どうしたの?と聞いて。 そうしてやっと弟たちは、桃ちゃん、と飛びつくんだから! それが憎らしくもあり、だけどやっぱり可愛い弟だから、大人しく訳を聞くのだけれど。 そんなだから、杏ちゃんは大好きだけど、たまーに、ごく稀に、嫉妬してしまう。 なにをしても、どう生きても、私たちを育ててくれた杏ちゃんには、きっと一生追いつけない。 そんなことをクロちゃんに言ったら、頭を撫でてくれました。桃子にしかできないことがあるはずだと、笑って慰めてくれます。 そんなやさしさを受けて、時にはほろりと泣いてしまう時も、よしよし、と頭や背中を叩いてくれます。 みっともなく泣いて彼にしがみついてしまう私はまだ子どもで、反対にクロちゃんはすっかり大人の男性で、とてもかっこいい。 そんな人に優しくしてもらえるのは「妹」の特権でしょうか。すこしだけときめいたのは秘密です。 そう、私はこんな、弱味といえる部分をキューちゃんには絶対言いません。 なぜなら、杏ちゃんに筒抜けになりそうだから。 杏ちゃんに弱いキューちゃんは、彼女に聞かれればなんでも答えてしまうし、なにより彼は昔から椎葉家に近い立ち位置にいます。 そんなキューちゃんに弱みを見せることは、なんとなく嫌なものがあって。それは彼が家族と同じように感じられるからなのかなあ、なんてぼんやり思います。 だから私はクロちゃんに甘えます。たまにミケちゃんもやってきて、同じように頭を撫でたり抱きついてきます。 誰にも言わないけど、そこが私の秘かなオアシスで、そこに行けば、また笑って杏ちゃんのもとに帰れるのです。 * 「――桃、次どこに行く?」 友達の七海に声をかけられて、ハッとした。 せっかく文化祭に来ているのに、いつのまにか考え込んでいた私は、慌てて彼女の方に向く。 その時、ブォオオン…キーン…とマイクの耳障りな音がして、思わず耳をふさいだ。そこに、凛とした女性の声が校外に高らかに響く。 『生徒の呼び出しをします。生徒会長の大河獅子王、今すぐ生徒会テントに来てください。繰り返します、生徒会長の――』 「…ししお、だって」 「すごい名前だね…しかも呼び出されたよ、生徒会長が」 ナナが面白そうな学校だと笑った。確かに、すこしだけ破天荒な色が見える、この学校には。 私はあはは、と同じように笑い、行こうと促した。 その数分後、見事にはぐれて私は中庭でひとり、ある女性と出会った。 ナナを探してキョロキョロ見回していた時、ぶつかってしまったその女性の声が、先ほどのアナウンスのひとだと気づいたのだ。 そう言うと、彼女は大きな目をさらに見開いて驚いていた。 そのまま話していると、その女性がここ階南高校の生徒会執行部副会長であることが判明する。 彼女は腕章を指した。 「生徒会?」 「ええ。私は副会長の古橋百子。さっき呼び出しかけられてた大河獅子王ってやつが、バカ会長よ」 見知らぬ他人にすら会長に敬意を示す気はない彼女は、先ほどの呼び出しを思い出したのか、 軽くイラッとしている。聡明そうな外見と雰囲気とは裏腹に、すこぶる正直なひとだ。 けれど、注目はそこではない。今度は私が目を丸くして、思わず前のめりに話してしまう。 「わ、私も桃子って言うんです!椎葉桃子って言います」 「え…本当に?すごい偶然ねー!」 パッと花が咲いたように一気に笑顔が弾けた。 これも縁だし、良かったらジュースでも奢るわ。どう? 古橋百子と言った女性は、明るく屈託のない笑みを見せた。 綺麗な顔に、見え隠れするクレバーな雰囲気。 その女性の持つものに私はすっかり呑まれて、私はナナを探すことなどコロッと忘れてしまった。 こうして、私と「百子さん」のお話は始まる。今日限りの、特別な一日。 数分後には「桃ちゃん」「百子さん」と呼び合っていた。 ジュースを飲みながら落ち着く場所を探していると、百子さんは有名人なのかやたらと声をかけられる。 すごいなあ、と思っていると次は同じように腕章を付けた男性が二名やってきた。 「お、百子ちゃーん」 「あんたたち何してんのよ」 「ちゃんとパトロールしてますって。それより百子ちゃん、この子は?きみ可愛いねー、お兄さんと遊ばない?」 「え、あ、わ、」 「鷲尾、ナンパしない。この子ね、私と同じ『ももこ』って名前なのよ」 「へえ、知り合いか?」 そこで百子さんは簡潔に事情を説明する。まあ、もとよりそんな深い事情はないけれど。 すると、犀川と呼ばれた男性がニヤッと笑った。 「いいけどさ、獅子王にも構ってやれよ。あいつ、そばに百子がいねーと物足りないみたいだぜ」 「いや犀川、それよか同じ名前の『桃子ちゃん』を獅子王にあてがったら、どんな反応するか見てみたくない?」 一瞬困惑するが、すぐに私の頭は冷静に四人の立ち位置を把握した。 ああ、どうやら『獅子王』さんは重要人物みたいだ。生徒会にとっても、特に百子さんにとっても。 「…っなんであいつが出てくんのよ、知らないわよバカ王なんて!」 思わず目をぱちくりとした。 彼女は驚くほどの大声で怒って、私の手を引いてずんずんと先を歩く。 残されたふたりは気にしてないようで、緩い笑顔で手を振っている。 あれ?からかった、だけなのかな。でもこの状態を見ると、おそらく、いつもこんな感じなのだろう。 すこしだけ百子さんが不憫に思えた。 「百子さん?」 呼び掛けても答えない彼女の耳は、赤く染まっていた。 私は思わず笑ってしまった。 やっぱりデジャブだ。こんな風に素直になれない人を、私はよく知っている。 「獅子王さんとは恋人同士なんですか?」 「っ!?ち…違うわよ、誰が、あんなやつ…!」 ようやく見つけた空きベンチに腰を下ろして質問したら、 案の定、百子さんはドキッとしたような顔で断固否定した。 それがとても怪しいと思わせることに彼女は気づいていないんだろうか。 だって聞いてよ、獅子王ってやつはね!? 息巻く百子さんは大河獅子王という人物について事細かに訴えてきた。 要するに彼は、名の通りこの学校の王様なのらしい。傍若無人、自己中心的、天上天下唯我独尊、うんたらかんたら。 彼にまつわるありえないエピソードが次々と飛び出し、百子さんの怒りのボルテージもだんだん上がってゆく。 それは商店街はおろか、周りには滅多にいないケースだと、私は圧倒された。 そして、今まで協力して解決した事件も、彼女の口から語られる。 「だから放っておけないのよ。鷲尾と犀川も一緒になって悪事を働こうとするから、尚更私がしっかりとしないといけないし」 「そ…それは大変ですね…」 「うん…本当に、ね……。でも、これでも昔よりはずいぶん解り合えてきたような気はするの。学校を守りたいって気持ちは、一緒だし…」 前は本当にいがみ合ってばかりだったから、その頃よりは彼を信頼できている、と百子さんは言った。 なんとなくふたりが心の底では信頼し合っている様子が想像できた。 鷲尾さんたちが茶々をいれるほど、傍からは、ふたりはセットのように見えるのかもしれない。 たとえば、クロちゃんとミケちゃん、みたいな。 くすっと小さく笑ったら、百子さんがすこし恨めしげな目で見てくる。 「もう桃ちゃん…なんで笑ってるのよ」 「いえいえ。ただ…百子さんの中で獅子王さんは大事な位置にいるんだなあって思って。なんだかんだ言って気になる人なんですよね!」 「ええ!?桃ちゃんそんな断定的な!べ、別にそんな大層なものじゃないわよ、あいつは。バカ王で十分よ」 「ふふ、百子さん。時には自分の気持ちに正直になった方がいいことってあると思いますよ?」 「もう…。え…なあに、それ、体験談?」 「はい!といっても私のことじゃないですけど」 百子さんはきょとんとして、私を見つめた。 私はにっこり笑う。 「桃ちゃんではないの?」 「はい。私の…姉なんですけど」 next |