神が一時休戦だと笑い、悪魔がそんなことさせねえと嘲笑った。






「あ、つーいー!!!」

少女の切実な叫びが銀河町商店街に響き渡った。
見ただけで事情がなんとなく読み取れるため、通りを行き交う人々は心の中でこっそり涙をぬぐう。
その一秒後には、仲間にはたかれることとなるのだが。


「そんな判りきったこと叫ばないでよ。虚しいだけじゃない」
「んだんだ」
「全くもってイバちゃんの言うとおりだな。俺らだって我慢してるんだからよー」
「だってなんで今年もテントで売り子なのー!?プール行きたい!もう夏休みが終わっちゃうよう」
「ミケってほんと学習しないね・・・」
「ふふ。ミケ、確か早く売っちゃえばいいんじゃなかった?」

サトの優しい声に癒されつつも、告げられた内容にミケはハッとする。
それからの行動は速く、あれよあれよという間に客を引き寄せ、あっという間に在庫を空にした。
今年はおにぎり屋として出向いている杏子の目がまん丸になっている。
げえ、俺らの客とんじゃねえよー!と罵声を浴びせる一休の横で、 勉強もこれぐらい真剣にやりゃいいのにな・・とクロが呟いたが、 瞬く間に自由を手にして幸せいっぱいのミケの耳には届かなかった。



「お、きたな。朝からごくろーさん」
「マスターァァァ水ーーー!!」
「はいよ。おまえらちゃんと水分補給しなきゃだめだろ」
「・・あー生き返るー・・・」

ミケに負けじと他の者も必死になった結果、なんと一時間後には完売、それは午後一時を少々過ぎた頃だった。
そんな風に売り子の優秀っぷりを発揮してしまうから毎年即戦力として任せられてしまうということに、当の本人たちは気づいていない。
現在、一番星というオアシスにようやくたどり着いたとぐったりしている様は、さながら無人島から帰還した旅人のようだ。

「お、そーいや知ってるか?出来たんだってよ、公園に。期間限定だけど」
「なにが?」



「お化け屋敷」







「――で、なんで入ることになっちゃうの?」
「まあ固いこと言わないでイバちゃん」
「いや固いことっていうかなんていうか・・・」
「楽しみー!卒業遠足以来だよね!」
「ああ、そーいや遊園地に行ったよな」
「・・・おいサト大丈夫か?」
「ななななに、キューちゃんっ?」
「おまえ声裏返ってるぞ」
「サト?無理しなくても」
「だ、大丈夫イバちゃん!み、みんなと一緒なら怖くないよきっと、ね!?」
「サト、そこまで頑張るものでもないよ!?」

ようやくたどり着いた先にはなにやら人だかりが出来ていた。
お化け屋敷ってそんな人気だったっけ、と全員が首を傾げていると、よく知った顔が振り返った。

「チャコ!」
「ミケ、クロちゃん!とみんな」
「おい俺らはついでか!?」
「まあまあまあキュー。どうどう」
「ううイバちゃん・・っ」
「ねえどうしたの、これ?」
「ミケ聞いてないの?あのねー、このお化け屋敷を最短時間で出た人には賞金があるんだって!」
「・・え?」




「――で、なんで競うことになっちゃうの?」
「イバちゃん。これが運命だよ」
「やだこんなデスティニー・・・」
「さーおまえら準備はいーかあ?」
「いーですともキューさんよ」
「ここは公平にー!」
「「「グーチョキパー!!!!」」」




「なんかすげえマニアックな組み合わせ」
「こないだと全然違うね」

一休と杏子が呟く。
ジャンケンによって決まった組み合わせは、少々予想外なものであった。ミケと杏子、クロとキュー、サトとマモル。
「野郎と一緒に入る趣味はねえよ・・・」と一休とクロは同時に思うが、公平にジャンケンと言った手前、 文句を口にするのは不可能だった。
しかし、希有な組み合わせに戸惑ったのはほんの数秒、やがてお互いに顔を見合わせてにんまり笑う。

「負けねーぜ?」
「もちろんあたしたちが勝つからね!」
「今日の夕方にチャンピオンが決まるらしーぜ」
「その時が楽しみだね」




「マ、マモルくん・・・」
「・・大丈夫?」
「・・う、うん・・と、とりあえず中、入らなくちゃね」

トップバッターはこの二人。怖いものは先に済ませてしまった方が楽だろうという皆のサトへの配慮だった。
中に入り、マモルは、今にも泣きそうな顔をしているサトをちら、と見る。
そして。
「はい」
「・・え、?」
「手。繋いだ方が安心でしょ」
「・・うん!ありがとう、マモルくん」
「うん。行こ」
温かいぬくもりにサトはほっとして歩き始める。
マモルの優しさが嬉しくて、さっきまでの恐怖はどこ吹く風、一瞬にして明るい笑顔になった。
が、次の瞬間、その笑顔は凍りつく。

、ピチャン・・・。

「・・え?」

ポトッ・・ピチャン・・・。

「・・・・っ・・・・」




「おーおーよく聞こえるわ、いい断末魔っぷり」
「外にまで響くのがすごいね」
「何に怖がってるんだろーな」
「凄い怖いってホントかなー?」
「あ、次の人入っていいって」
「先に行ってもいい?」
「おう、いいぜ」
「気をつけていけよー」



「・・・おまえミケと一緒じゃなくて残念だったな」
「ほっとけ!」




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